津野田興一
著者のコラム一覧
津野田興一都立日比谷高校教諭

1965年生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科史学専攻修了。現在、東京都立日比谷高校で世界史を教える。著書に「世界史読書案内」(岩波ジュニア新書)、「やりなおし高校世界史―考えるための入試問題8問」(ちくま新書)、「第2版 ポイントマスター世界史Bの焦点」(山川出版社)など。

20m超に巨大化 モアイが見つめたイースター島の“文明崩壊”

公開日: 更新日:

 700万年前に誕生したヒト。その後、多様なタイプの人類が生まれ、やがて世界各地に広がってゆきました。では、アフリカで誕生したとされるヒトが最後に到達した場所はどこでしょうか? 今回は、その話をしましょう。

  ◇  ◇  ◇

■太平洋

 地球上で最も大きな海は、人類にとってやっかいな存在でした。およそ2万年前の氷期に、アラスカとシベリアの間のベーリング海峡が氷の橋でつながっていたときにはユーラシア大陸からアメリカ大陸に人類が渡ることができました。しかし、図①のように太平洋の島々に関しては、海流の関係もあり、人類の拡散には困難が伴ったのです。

 転機は6000年前ごろから、中国において北から南への民族移動が起こったことにありました。これにより押し出された人々が台湾からフィリピン、東南アジア、そして南太平洋諸島へと乗り出します。図②に見られるように、南太平洋に浮かぶマルケサス諸島を起点に、ハワイ、ニュージーランド、そしてイースター島へと拡散しました。タロイモなどの根菜やバナナなどを食す共通点を持つ文化圏が形成されたのです。


■人類が到達した最後の地

 その中でもイースター島は、人類が到達した最後の地とでもいえる場所でした。その周囲には島もなく、いわばひとつの「島宇宙」のような場所でした。しかし、ここにも人類は文明を築きます。その証しがモアイ像でした。

 モアイ像については古来、その機能や意味が議論されてきました。ここでは環境考古学の第一人者である安田喜憲さんの著書「環境文明論」に基づいて、イースター島がたどった歴史を概略してみましょう。

モアイとは何か?

 さて、イースター島とくればモアイ像ですが、いったいこのモアイとは何なのでしょうか? イースター島の湖底から採取された花粉を分析してみると、現在、背の低い木しか生えない草原となっているイースター島には、かつてヤシの木の森が広がっていたことが分かっています。人類は木材資源を利用して家をつくり、燃料を手に入れ、道具をつくり、繊維を取り出してロープとしたり、船を建造して海の幸を入手したりしてきました。その過程でモアイ像がつくられました。

 モアイ像は海を背にして陸側を向き、30度ほど上を見上げている形で建てられていたようです。理由が分からないかつての人は「宇宙人との交信のため」といった、「トンデモ」説を唱えていたようですが、台座から人骨が発見されるに及び、村の長の墓であることが分かってきました。海を背にして斜め上を見上げているのは、高台にある集落を見守るためで、サンゴでできた白目と黒曜石の黒目が入れられていました(図③参照)。

■巨大化

 しかし、人口の増加に伴って森林破壊が進み、島の植生が激変してゆきます。特に西暦1200年ごろに大規模な森林破壊が行われたようです。そして森が消滅してゆくのと比例して、モアイ像も巨大化して高さ20メートルを超えるものさえ出てきました。それはあたかも、人類が自然を征服して強大な力を誇示するシンボルであるかのようにも思えます。

 石切り場から村の長の姿を刻したモアイ像を運ぶには、コロや吊り上げ用の木材などが大量に必要ですが、森の破壊に伴ってやがてそれにも事欠くようになると、17世紀ごろにはモアイ像をつくることができなくなります。ちょうどこの頃から「モアイ戦争」と呼ばれる抗争が激化して、対立する村の守り神であるモアイ像を前のめりに引き倒すようになります。ヨーロッパ人がイースター島を訪れた際、モアイ像がすべて前方に倒されていたのは、このような背景があったからでした。しかし、島の人々には、モアイ像を元に戻すための木材資源は残されていませんでした。 

環境問題

 イースター島における文明社会のシンボルであるモアイ像は、森林破壊が進行する中でもつくられ続け、とうとう島の人々は貴重な資源を提供してくれる森を破壊しつくしてしまいました。やがて破局がおとずれます。

 グラフをご覧ください。森林資源の枯渇後も人口は増え続けました。人間は家族とのライフスタイルをそう簡単には変えられないのです。しかし、とうとう「文明崩壊」が起こります。恐らく少ない食料をめぐる抗争が激化したと想像され、人口の激減が島を襲います。イースター島の自然環境が、その人口を支えることができないほど破壊されてしまったからでした。その頃に、島に来るようになっていたヨーロッパ人が持ち込んだ感染症による被害もあったと思いますが、人口の回復がなされなかったのは、自然環境の破壊が破滅的な状況となっていたからだと考えられます。

■イースター島から学ぶこと

 絶海の孤島といえる南太平洋のイースター島において、文明が環境破壊によって消滅したという事実は、まるで宇宙に浮かぶ地球という文明圏の未来に警鐘を鳴らしているようにも思えます。私たちは、経済成長も大切ではありますが、それを支える大前提となる地球環境について考えなくてはいけない、見過ごしてはいけないという教訓として、この歴史的経験を共有すべきなのではないでしょうか。

 イースター島では、今でも物を言わないモアイ像たちが、私たちを見つめ続けています。

■もっと知りたいあなたへ

環境文明論 安田喜憲著(論創社 2016年)4800円(税別)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のライフ記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    南野陽子再ブレーク!「半沢直樹」で狙いのねっとり関西弁

  2. 2

    軽率さ変わらぬ石田純一 東尾理子に見放され離婚へ一直線

  3. 3

    「半沢直樹」新ステージは“vs東京乾電池”柄本明より注目は

  4. 4

    安倍首相の体調不良説に拍車 高級ジム滞在「3時間半」の裏

  5. 5

    グロッキーな安倍首相 小池知事の“夏休み妨害”に怒り心頭

  6. 6

    コソコソ逃げる安倍首相は、なぜそんなに会見が嫌なのか?

  7. 7

    半沢直樹を下支えする肝っ玉母 菅野美穂と上戸彩の共通点

  8. 8

    綾瀬はるか熱愛報道から1カ月 周辺でハプニング続々のナゼ

  9. 9

    キムタク長女が破局 ハンパが許せなかった工藤静香の怒り

  10. 10

    山下智久 現役JKお持ち帰り報道で忍び寄る“最悪シナリオ”

もっと見る