新橋の老舗「ニコラス」のピザで蘇る家族の思い出

公開日: 更新日:

 その店はもともと、六本木にほど近い飯倉片町の坂の途中にあった。

 半世紀ほど前、高度成長に後押しされて絶頂期の父親に連れられて家族でよく食事に行った。それは家族の誰かの誕生日やクリスマスといったイベントのときばかりではなく、ことあるごとにその店を利用していたのだ。

 それが突然閉店、取り壊されたときはそれこそ仲のいい親戚がいなくなったような喪失感を禁じ得なかったことを覚えている。

 その店は日本に初めてピザを紹介したニコラス六本木店。後年、「東京アンダーワールド」を読み、ニコラスの歴史はかつてのオーナー同様、波瀾万丈と知ったのだった。

 アタシがまだ10代の頃、父親は40代そこそこで脂が乗り切っている。家族以外の人たちともよくニコラスに来ていた。危ない世界に片足のくるぶし辺りまで浸りながら、チーズとサラミをつまみにワインを飲み、悪だくみをしていたのだろう。家族で行くときはピザをよく食べていた。30センチのラージサイズを食べ盛りのアタシと競うように1ホールずつ食べてアキれられたことがあった。

 ニコラスのピザは近頃のピザみたいに薄くない。チーズの量もたっぷりのいわゆるアメリカンタイプだ。今ではそんなには食べられないが、ニコラスピザの醍醐味はラージサイズをほおばるところにある。アタシは1人で行ってもビールのつまみには必ずラージサイズを頼むことにしていた。スライス2枚で十分。残りはお土産だ。40代になっていた親父がよく1ホールも食ったとアキれて思わず苦笑するアタシは、すでに当時の親父より20歳も多く年を取ってしまった。結局、六本木のニコラスはなくなってしまったが、あの雰囲気を色濃く残しているのが「ニコラス新橋店」である。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か