特別編<5>「やすらぎの郷」オーディションは平均台の上で

公開日: 更新日:

倉本 僕は役者がものを考えるアクションとしてたばこを使ったりするのですが、昔は淡路恵子さんや芦田伸介さんなんかが実にかっこいい吸い方をしてましたね。海外でいえば、マレーネ・ディートリヒが膝を組んで長いパイプで吸っているシーンも印象に残っています。たばこを吸わなかったらディートリヒもハンフリー・ボガートも伝説にならなかったかもしれない。

碓井 菊村栄(石坂浩二)が脚本家のむなしさを口にする場面があります。倉本先生は60年以上脚本家をなさっているわけですが、どうですか。

倉本 あのセリフはまったく本音ですね。昔はコピー(複写)なんてないから、連続ドラマを書き上げても「お疲れさん」のひと言で台本は局に渡り、そのまま処分されていました。「北の国から」の手書きの原稿も僕の手元には残っていない。だからこそ「(放送の)瞬間に命をかける」といった特攻隊のような気持ちで書いていました。

碓井 残らないから頑張るという美学。

倉本 消えていくものだからこそ頑張って良くしなくちゃいけない。そう思えるかどうかがドラマ作りの分かれ目だったような気がしますね。

碓井 新作には菊村栄の師匠とおぼしき人物が出てきます。倉本先生のお師匠さんは。

倉本 僕は最初の頃、構成が弱いと言われていましてね。橋本忍さんや菊島隆三さんの台本をよく引き写したものです。かたやセリフは小津安二郎作品の脚本を手がけた野田高梧さんや「火山灰地」の久保栄さん。お師匠さんってお金を払わなくても勝手につくれるんです(笑い)。

碓井 今度の倉本ドラマにも、そうやって磨かれた宝石のような言葉が随所にちりばめられているわけですね。

倉本 わかる人はニヤッとするかもしれません。 (おわり)

(聞き手・碓井広義 文・山田稔)

※昨年1月から5カ月間にわたって本紙で連載した「ドラマへの遺言」が待望の書籍化! 今月15日の発売を記念し、倉本聰・碓井広義著「ドラマへの遺言」(新潮新書)を小紙読者10人にプレゼントします。
 希望者はハガキに郵便番号、住所、氏名、年齢、職業、電話番号、特別編各回のキーワード(全5文字)を順に明記して単語を完成させ、〒104―8007 日刊ゲンダイ「ドラマへの遺言」本プレゼント係まで。2月15日の消印有効。賞品の発送をもって当選者の発表に代えさせていただきます。第5回のキーワードは「キ」。 

【連載】倉本聰 ドラマへの遺言

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 2

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  3. 3

    渡辺謙63歳で「ケイダッシュ」退社→独り立ちの背景と21歳年下女性との再々婚

  4. 4

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  5. 5

    悠仁さま「友人とガスト」でリア充の一方…警備の心配とお妃候補との出会いへのプレッシャー

  1. 6

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  2. 7

    大阪万博は鉄道もバスも激混みでウンザリ…会場の夢洲から安治川口駅まで、8キロを歩いてみた

  3. 8

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  4. 9

    中島歩「あんぱん」の名演に視聴者涙…“棒読み俳優”のトラウマ克服、11年ぶり朝ドラで進化

  5. 10

    米価高騰「流通悪玉論」は真っ赤なウソだった! コメ不足を招いた農水省“見込み違い”の大罪