53歳の漫談家 ユリオカ超特Q「芸人殺しコロナ地獄」

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藤波辰爾さんは大恩人

 屈強で若いプロレスラーたちのいるリングに53歳、168センチの漫談家ユリオカ超特Qがあがった。

 プロレス団体「ノア」公式YouTubeチャンネルでスタートした、バラエティー企画。ロープワークや筋トレ、メンタルづくりをめぐって面白トークを繰り広げていくが、お笑いのステージでのライブ活動をメインにしている普段の芸人の姿からは遠く、さながら異種格闘技戦だ。

「ライブもやっていないわけじゃないんですけど、蔓延防止に皆さん最大限努めている分、本数は減り、やらせてもらってもお客さんは十分な間隔を取ってもらっているので、それまで通りのギャラをいただくところまではいかないんですよ。30人とか50人規模の小さな劇場は存続が危ぶまれてますね」

 そんな切羽詰まった状況でひょんなところから決まった今回の企画。プロレスはもともと熱狂的なファンで、母校の立命館大ではプロレス同好会を旗揚げ、実況アナでも鳴らし、そこで鍛えた話術をもってタレント養成所の門を叩いたのが芸道のはじまり。そうやって28年目の、いわば原点返りだ。

「本当にお世話になっているのが、藤波辰爾さんです。こっちの世界(プロレス)を紹介してくださり、ステージではモノマネし、結婚したときは婚姻届の証人にまでなっていただいて、大恩人なんです」

 藤波との出会いは20年前の講演会で、藤波はもちろん、夫人に気に入ってもらえたのが大きかったと振り返る。

「ああ、この人、本当にこれが好きなんだなあ、心から応援しているんだなあって、ステージに立っていて、ぼくも分かることがあるんです。藤波辰爾さんご夫妻にお会いしたときのぼくもそうだったと思います。うわべじゃない気持ちをむき出しにして恥ずかしい限りですが、それで覚えていただけた。好きとかこだわりがあって、良かったですよ」

■稼ぎが減った立場をわきまえ炊事洗濯

 もちろん、プロレス企画だけで食いつないでいけるはずもない。家に帰れば共働きの妻と、小学生低学年のひとり息子がいる。稼ぎの減った立場をわきまえ、炊事洗濯を率先してやりながら、ふと思い出すのが大学卒業後、普通に就職し、約2年間サラリーマンで、営業マンであったこと。

「簡単に稼げる仕事ではないのは、分かっていたつもりです。何の保証もないのも覚悟の上。もし売れれば一獲千金だってあると夢見て、飛び込んだくせに、30年近くやって生活不安にさいなまれ、頭を抱えている。人前で何かやって、見てもらってナンボなのに、その評価にあずかることもできない、ステージで思い切り表現できないストレスは正直きてますね」

 生まれてはじめてスポーツジムに入会、体を鍛えようとしたが、そこにいたのが同じ中高年世代ばかりと笑い、ネタ帳を開く。50代芸人はまだギブアップしていないのだ。

アイドルとの親交をファンに伝え双方の橋渡し役

「完成形じゃなくて、まだまだ伸びしろがあるというところが、ある意味アイドルとして完成形じゃないかと思う。まだまだいいものが見られるんじゃないかという期待感、魅力、この矛盾ね」

 漫談家のユリオカ超特Qはオンライントーク「僕たちSKE48の味方です!」で、そんな持論を披露して場を盛り上げていく。

 ユリオカは女性アイドルグループに通じ、ファンイベントの司会をしたりしてきた。このほどグループから卒業した松井珠理奈と、コンサート舞台裏でツーショット写真に納まったり、メンバーとの親交でも知られている。そこからのエピソードをファンに伝え、双方の橋渡し役としての顔を併せ持つ。そして、それによって、コロナ禍で激減している芸人の活動を補っている。

 53歳。親と子どもか、それ以上の年齢差のあるアイドルたちとのジェネレーションギャップをどう埋めているのか。

「アイドルを応援するという趣味というか、好きでやってきたことですからね。ファンのオタク気質は80年代から基本的には変わってないと思いますし、アイドルという共通項があるから、年齢を超えてメンバーとの交流も楽しめるのかも」

 最近はアイドルグループも入れ替わりが早く、顔と名前を覚えるだけでも大変なのでは?

「まあ、そういう年ですからね。ぼくは高校時代、クラスメートを覚えていくような感じですよ。一度に覚えるのではなく、気になる女の子ができて、それが美術部で、絵も描いているんだと知って驚いたり、美術にも興味を持っていく。ひと口にアイドルといっても、ひとりひとり個性があって、同じグループでも年代によって、特徴が異なるし、知れば知るほど、面白いですよ。脳トレにもなるし」

 その昔、新田恵利ファンからおニャン子クラブに興味を持ち、国生さゆりら他のメンバーのことも覚えていったのに近いという。

 ところがコロナ禍でライブ出演の場が激減、イベント開催も同様で、出会いや交流もままならなくなった。家でネタや企画を考えていると、テレビでお笑い第7世代を見ている小学校低学年のひとり息子の視線を意識してしまう。

■後輩芸人からは「スベQ」と

「約30年もやってきたのに、大した知名度もなく、芸人といいながら、ほとんどテレビにも出ていない。落ち込まないといったら嘘になりますね」

 その息子が「鬼滅の刃」に夢中になったとき、一緒になって見ているうちに、アニメが世代を超える共通項となっていたという。ネタやギャグが「スベQ」と後輩芸人から呼ばれたこともあり、アニメネタも自滅の刃になりかねないが、「そうなっても、甘んじて、受けさせてもらいますよ」と前を向く。

 中高年世代の生き残りのヒントも、このあたりにあるのかも知れない。

「頭髪自虐ネタも使えず “最終秒読み”が始まっているのを感じる」

「おおらかで、シリアスさが足りないぼくらの世代には初めて直面するシリアスかもしれませんね」

 53歳の漫談家ユリオカ超特Qはコロナ禍のつらい現状をそう表現した。もっとも、80年代の思い出は嫌いどころか、同世代の観客らとタイムスリップしては楽しんできた。司会のイベント「80年代歌謡リクエストカフェ」に浅香唯らを招いて当時のエピソードで盛り上がったり、コロナ禍も単独で「いまならあり得ないアイドルソングの歌詞」をネタに「なんでもいいから、一度お願いしたいなんて、歌っちゃうんですよ」などと突っ込みを入れて、笑いを誘う。なぜかTシャツが透けて、ポニーテールが好きで、別れ話に涙して走っていく彼女を止められない。

 そんな当時流れた歌謡曲の世界に浸るのは現実逃避かもしれないが、それでもいいじゃないですか、という考えだ。

「シリアスさは足りないけど、気楽で、楽観的で、自分が年をとるということすら、どこか分かっていない。若い頃好きだったものをやめず、このままなし崩し的に最期までいっちゃうかもしれませんね」と言う。

 翻ってコンプライアンス重視の今は、ネタの自由度も狭まるばかり。男性タレントの頭髪を強調し、「不毛な争いをなくす」などのフレーズのポスターが「配慮不十分」として、回収されたニュースをSNSで取り上げた。

「これまで20年以上、普通にやっていたネタも時代と合わなくなる。映画『破滅の頭皮 無毛列車編』とか、おつむじ無惨、とか、そんなことはもう毛根が枯れても言えなくなってしまうんですかね。毛髪と同じくファイナルカウントダウンが始まってるのを感じます」

■「ユーチューブでうまくいっているのはごくごく一部」

 栄枯盛衰がシビアな芸能界では、80年代世代は時代遅れどころか、ちょっと空気を見誤ると、排除されてしまう。生き残りを懸けて、ユーチューバーになるタレントが話題になっているが、ユリQはこう言う。

「チャンネル登録者数が1000人を超えないと、お金は入りませんし、ぼくのようにそれをちょっと超えたくらいでは、とても食べていくまでにはいかない。稼いで、うまくいっているのはごくごく一部の売れっ子だけですよ」

 それでもヤマっ気を持ちすぎず、地道にやり続ける。そこに生き残りの道を見いだそうとしているのには、師匠大竹まことからの助言がある。

「どんなに小さくても、自分だけの島(シマ)をつくれ。誰かと同じ島を争って勝っても、いつかは追い出される。そんな世界で残り続けていくには、オリジナルしかない。海面から、すれすれ頭頂部の髪のない部分だけ浮き出るかどうかというレベルですが、そこくらいですね、狙うのは。あ、この言い方もアウトですか」

 そう言って笑った。世相や若い世代にくみしすぎず、開き直る強さも必要ということだろう。=おわり

(取材・文=長昭彦/日刊ゲンダイ)

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