丸山正樹(小説家)愚直なだけが取り柄の男にまさか泣かされるとは
7月×日 本格的な夏の到来とともに1年以上取り組んでいた書下ろし長編をついに脱稿する。編集者からの意見が戻ってくるまでしばしの休息。読書&映画三昧の日々を送ると決める。
積読本の中からまず手に取ったのは、水沢秋生著「山田太郎の話」(小学館 1980円)。表紙に描かれた坊主頭にずんぐりむっくり体形のどう見ても冴えない主人公「山田太郎」がどんな人物であるか、彼とかかわりのあった8人の男女の目を通して語られるのだが。いやー、こんな愚直なだけが取り柄の男にまさか最後泣かされるとは思わなかった。人生で一番大切なのは「一生懸命生きること」なのだと教えられる。何かとせちがらい世の中、ほっこりしたい人におススメ。
7月×日 編集者からの戻りをドキドキして待ちながら、敬愛する作家である桐野夏生著「眠れぬおまえに遠くの夜を」(文藝春秋 2200円)を開く。2人の俳優を通して描かれる韓国芸能界の光と影。他国の芸能界についてのアクチュアルな活写も凄いのだが、これは映画「アマデウス」を彷彿とさせる凡才から見た「神に愛された者」の物語でもあるのだ。ラスト、2人の再会場面に戦慄した。
7月×日 三日にあげず映画館に通う行き帰りの電車の中のお供はやはり手軽な文庫本。20年近く前に亡くなったハードボイルドの名手、打海文三著「探偵という快楽」(KADOKAWA 1210円)を読む。2作の短編と1作の長編からなる本書の巻末には、「著者没後、発見された未発表作品です」とある。最後の長編「ロシアン・ルーレット」は今年映画も公開される著者の代表作「時には懺悔を」と同じくフリーの探偵・佐竹が主人公で、時系列的にも直後の話。完成度も高いのに、なぜこの作品が執筆時に刊行されなかったのか。著者自身がボツにしたのだとしたら自作への厳しさに頭が下がる。
読み終えたところに編集者からのメールが届く。束の間の夏休みは終わり。さあ、入稿まであとひと踏ん張りだ!



















