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荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<54>オレに街を100mも歩かせたら写真集が一冊できちゃう

公開日: 更新日:

 世田谷の豪徳寺に2011年の暮れまで30年間住んでたんだよ。豪徳寺は、お寺があっていいんだよね。夕方になると、ゴーンと鐘の音がしたんだよ。オレは、“ウィンザースラム豪徳寺”って呼んでたんだけど、そのマンションを取り壊すことになったから引っ越したんだ。馬鹿だよね、あのマンションを壊すなんてさ。 

 この写真は、家から駅に向かう途中で撮った名作ね。(小田急線)豪徳寺の駅の近くなんだけど、子どもたちが遊んでて、こっちからはサラリーマンが来るでしょ。ベビーカーを押す母親だろ。階段を降りてくる親子、奥さんたちが世間話してて、自転車に乗ったヤツが通りすぎていく。いいねぇ~。これはもう、バルテュス(画家)が完全に頭のどこかにあったんだね。人の散らばり具合。いろんな人がいて、それぞれの人生があって、街で混ざり合う。

■もたもたしてちゃ駄目

 オレはよく言ってたんだけど、写真家の最低条件のひとつは、いま自分に見えてる場面をとっさの反応でフレームインさせて、シャッターを押すっていうことなんだね。もう、それだけだって言ってもいいくらいなのよ。そういう所作っていうかさぁ、そうすれば、いい状況で向こうが入り込んできてくれるわけですよ。要するに素早いこと、だね。通り過ぎてく状況に対しての素早い所作があるだけでいいのよ。それが写真家の、最初の、基本的な条件だね。もたもたしてちゃ駄目なの。もたもたしてるうちに状況は通りすぎちゃったりするじゃない。人と人のぶつかり合い、それぞれの人生が街で混ざり合う。みんな個人だっていうときの一瞬の反応はさぁ、とっさでなきゃとらえられないんだよ。

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