「みずいらず」染井為人著
「みずいらず」染井為人著
離婚歴がある37歳の綾子は2年前、子連れ再婚をした。夫の健太は9歳年下で初婚である。郊外に家も買い、次男・楓も生まれ幸せいっぱいだったが、最近、夫が6歳の長男・蓮にだけ冷たい気がしてならない。小学校の担任から、蓮はADHD(注意欠陥多動性障害)ではないかと指摘されたのに、夫は「検査すれば?」とどこか他人事だ。やがて綾子は夫の言動すべてに疑心暗鬼になり、さまざまに被害妄想を膨らませていく。幸せだった日々は夫婦喧嘩で染まっていった。
そんなある日、綾子は蓮の通知表に書かれた担任の言葉に打ちのめされる。それを見た夫が伝えた言葉とは--。
本書はひとつ屋根の下に暮らす9組の「令和の夫婦」のすれ違いを描く連作短編集。仕事ではうだつが上がらず、造精機能障害で子宝に恵まれず、妻に申し訳なさでいっぱいの誠。定年後、家にずっといる夫が疎ましく、離婚を考え始める59歳の妻・美智子。そして美智子の息子で新婚の太輔もまた、明るすぎる妻・亜美に疲れ、結婚を後悔し始める。
気持ちの冷めた妻、または夫からの目線で描かれる家庭と相手の姿はこんなにも厳しいのか、とドキッとするだろう。しかし、一見無関心に見えてもそうとも限らない。相手の心の裡が明かされるラストに心温まる。 (祥伝社 1980円)



















