著者のコラム一覧
増位山太志郎元大相撲力士

1948年11月、東京生まれ。日大一中から一高。初土俵は67年1月場所、最高位は大関。引退は81年3月場所。引退後は日本相撲協会で審判部副部長を務めた。74年「そんな夕子にほれました」、77年「そんな女のひとりごと」などがヒット。画家として二科展入選の常連。「ちゃんこ増位山」(墨田区千歳)を経営。

<10>歌は水物です…「そんな夕子にほれました」はヒットすると思っていなかった

公開日: 更新日:

 子供の頃は力士より歌手になりたいと思っていたことは前にお話ししました。先代増位山の親父も歌が好きだったことと力士から演芸評論家になった小島貞二さんに勧められたのがキッカケで「いろは恋唄」(1972年)を出しました。

「いろは恋唄」は作詞が小島さん、作曲が山路進一さんでした。レコーディングの時のことは今でも覚えていますね。場所は赤坂のホテルニューオータニの裏通りのスタジオです。レコーディングが始まって、スタジオでマイクを通して初めて自分の声を聴いて「これが俺の声なの?」と変な気がして、驚きました。今でこそ普通に自分の声を聴けるけど、当時はマイクを通した声を聴く機会はなかった。自分の声がわからず、まったく素人と同じでした。

 レコードを出すようになってから「いい声だ」と褒められたりしたけど、僕自身はそう思ったことはなかったですね。

 レコーディングも面食らいました。当たり前だけど、素人だからどうやるのかまったくわかっていなかった。その頃はバンドが生演奏して同時録音するやり方から、録音したのを切ってつなぐ方法に変わったばかりでした。でも、それらもすべてが初めてのこと。当時は切ってつなぐのが結構大変で2日がかりになりました。

 契約もいい加減でしたね。「いろは恋唄」はキャニオンレコードの当時の社長もやってきたのに契約をしないの。何枚売れたかもわからない。歌唱印税もなかった。B面は「でっかくいこうぜ」という曲で、部屋の若い衆のヨイショ、ヨイショという掛け声が入っていてね。全部、身内で作っちゃったようなものでした。

 2枚目の「両国エレジー」(73年)は呼び出しの三郎に「関取、レコード出しましょうよ」と誘われ、CBSソニーから出しました。ギターの伴奏だけの軍歌を力士の替え歌にした曲でした。この時は5万円もらったのかな。今なら20万円か30万円だと思います。

困ったのは、結婚式では歌えなかったこと

 最初のヒットになった3枚目の「そんな夕子にほれました」(74年)は故・初代林家三平宅でお世話になっていた小島さんが女将さんの海老名香葉子さんにお願いして詞を書いてもらった曲です。「夕子」はお手伝いさんの名前です。前の2曲ともまったく売れなかったし、それがまさかあんなにヒットするとは思わなかった。世の中、何が本当に起きるかわからないものです。

 この時に思ったのは曲が売れるか売れないかはまったくわからないということ。歌は水物です。後からは何とでも言えるけれども。一人ぼっちの女、ナイトクラブの女……暗い過去を持つ女を「夕子」という名前にして素直に歌ったことが時勢というか、時代に合っていたということなんでしょうね。

 困ったのは「そんな夕子」は結婚式では歌えなかったことです。暗い過去をずっと歌っているので、お祝いの席にはそぐわない(笑い)。

 発売されて毎日1万枚、2万枚が売れました。ラジオや有線も鳴りっぱなしです。当時はヒットすると、レコードジャケットが欲しくて記念に買う人もいました。今でいうジャケ買いです。それを宝物みたいにして持っている人も多かった時代です。CDが売れない今とは大違いです。

 そして、3年後に出した「そんな女のひとりごと」が130万枚のヒットになりました。=つづく

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    TBS「ラヴィット!」の“テコ入れ”に不評の嵐! グダグダぶりを楽しむ独自性損失で視聴者離れ加速危機

  2. 2

    「おい、おまえ、生意気なんだよ」 野村監督は俺の挨拶を“ガン無視”、暴れたろうかと考えた

  3. 3

    「オールスター感謝祭」で“ブチギレ説教” …島崎和歌子は今や「第2の和田アキ子」の域

  4. 4

    NHK朝ドラ「風、薫る」巻き返しを阻む“最大のネック”…見上愛&上坂樹里Wヒロインでも苦戦中

  5. 5

    米国とイランが2週間の停戦合意も日本は存在感ゼロ…お粗末すぎた高市外交を識者「完全失敗」とバッサリ

  1. 6

    スピードスケート引退・高木美帆にオランダが舌なめずり “王国復権の切り札”として白羽の矢

  2. 7

    高市政権が非情の“病人切り捨て”強行で大炎上! 高額療養費見直し「患者の意向に沿う」は真っ赤なウソ

  3. 8

    ブチ切れ高市首相が「誤報だ!」連発 メディア、官邸、自民党内…渡る政界は「敵ばかり」の自業自得

  4. 9

    JFAは森保一氏の“囲い込み”に必死 W杯後の「次の日本代表監督」のウワサが聞こえない謎解き

  5. 10

    『エニイ・タイム・アット・オール』1964年のジョンのギターを聴くだけで元気が出る