著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

BOOK'N BOOTH(大阪・阿倍野)店主・中村さんの好きを反映した「推し棚」を見れば本屋全体が見えてくる

公開日: 更新日:

 小ぶりな家が密集する街区に、異彩を放っている。木枠のガラス戸を開けると、明るめのアースカラーの壁に囲まれた16坪ほど。割り箸工場の駐車スペースからの改装だそうだが、ややゆったりと本が並ぶ光景の、なんと美しいことか! 昨年8月にオープンした。

「2階を社労士の事務所に、1階を本屋にできる物件を探したんです」と、店主の中村優子さん。ふむ? 国家資格の社会保険労務士?

「そうですそうです。ジュンク堂に勤めていたんですが、出産、子育てとかあって辞めて。社労士の勉強をして資格取って勤めて、独立して……。社労士として本屋と関わりたかったけど、それは難しいと分かり、じゃあ自分で本屋をやろうと無謀にも(笑)」と聞きつつ、「ほー」と2度ほど言ったが、その後に、「ほー」を連発しちゃうことになろうとは。

 大学時代から「年に300冊」ペースで読み続けている小説はオールジャンル。ジュンク堂勤務時代に、「書店と民主主義」の著作などで知られる先輩、福嶋聡さんの影響を受けた「福嶋チルドレン」のひとり。立ち寄ってくれる作家らも多く、津村記久子さんとも雑談トークする仲。福嶋チルドレンたちでつくった天満橋店(大阪市中央区)のコーナー名を店名にした。この店の2人のスタッフも、その時の仲間……。

作家別に並べた文庫の棚がかなりのボリューム

 さて、入り口近くに「推し棚」が。表紙が見える陳列で40冊ほどが、存在をアピールしている。目の高さに、町田康「朝鮮漂流」、戌井昭人「おにたろかっぱ」、西村賢太「一私小説書きの日乗」、その下に伏尾美紀、町田そのこ、川上未映子、朝井リョウ、嶋津輝ら。

「ははぁ~。中村さんの“好き”を反映?」

「上から、昔読んで良かった本、未読だけど良さそうな本の順ですね」

「なるほど」

「この推し棚を薄めると、ウチの本屋全体になる(笑)」

 なんて話が楽しすぎる。

 出版社別ではなく、作家別に並べた文庫の棚がかなりのボリューム。「装丁丸ごと読む感じですね」と思わず言った桜木紫乃や多和田葉子、梨木香歩、宮本輝、向田邦子、高橋源一郎らの単行本もずらり。

 スタッフの中村明香さんはノンフィクション、ビジネス書、もうひとりの山下美緒子さんは絵本・児童書、コミックが得意。というわけで、文芸中心だが、全方向が組み入れられ、町の本屋としても申し分なし。

◆大阪市阿倍野区天王寺町南3-8-4/℡06.4400.8526/近鉄南大阪線河堀口駅から徒歩5分、JR大阪環状線寺田町駅から徒歩11分/午前11時~午後8時、無休

ウチの推し本

「戌井昭人 芥川賞落選小説集」戌井昭人著

「戌井昭人さんは、2009年から5回も芥川賞の候補になって、毎回落選した人です。ダメさ、赤裸々告白ありのこの人の小説を、私はデビュー作『まずいスープ』のときから推していて、世間が推さないのが不思議で仕方なかった。いつしか文庫も品切れのままになり、デビュー当時の傑作が手に入らなくなっていたんですが、この文庫を出す筑摩書房さんの英断! 多くの人に読んでほしいです」

(ちくま文庫 1320円)

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