著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

米アカデミー賞7冠「エブエブ」の衝撃! ハリウッドにおける「アジア系映画時代」の到来

公開日: 更新日:

 過剰な自由が人格的自律をむしろ損なうという逆説は、自由意思など存在せず、すべては決定されているという古典的哲学命題も想起させる。ブラックホール(虚無の天体)にマルチバースを引きずり込もうとするジョブ・トゥパキは実は主人公の娘であり(ステファニー・スーが2役を熱演)、その彼女を救えるのは母親ミシェル・ヨーだけというのがこの映画の肝だ。

 あらゆる潜在的可能性が凝縮されている存在がいま目の前にあることに気づいた母親が娘を抱きしめる時、「その事以外はどうでもいい」(Nothing matters)という光が差す。スマホ一つで完結されるような矮小な「仮想現実化」と「社会の分断」が進む現代だからこそ、いま目の前にいる人を愛し、他者に手を差し伸べよというシンプルな訴えが胸にじわじわと迫る。

 過去の名作映画が頻繁に引用されるこの映画、1回見ただけでは意味が分からない難解な箇所もある。オススメは最低でも2回、何回でも見ることだ。

▽北島純(きたじま・じゅん) 映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク王国大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃