奥田瑛二さん「天職は映画監督、適職が俳優」「懸案の2作品を撮りたい」

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 ――これまで監督として5作を世に送り出した。

 監督作に関してはこれから3作あって、45分の短編映画はすでに出来上がっています。長編はクランクインするはずだったのですが、コロナがはやり、1度目の緊急事態宣言で中止にしました。濃厚接触がダメだと撮れませんからね。主演の俳優さんに一縷でも恐怖心があるとそれがカメラに映り込むんです。そういう状況がなくなった後に撮ろうと思っているうちに3年も過ごしてしまいました。

 キャスティングから資金まで全部バラシだから大変です。なるようにしかならない。ケセラセラで中止にしたけど、俳優とは違う監督というもう一人の自分がいて、2カ月後にはブラックホールに落ちましたね。そこから這い出るのが大変でした。でも、今はどの順番で撮ろうかと悩んでいる最中です。来年の秋には撮影に入りたいなと思っているので、準備にかからないといけない。撮影に入ったら、俳優の仕事はマルッポ休まないといけない。映画のスタッフや出演者のスケジュールは、遅くとも年明けまでには声をかけないといけない。実はそうやって動いているのが元気の源です。瞬間、瞬間で脳みその切り替えができるように成長もしました(笑)。

 優先順位でいうと天職が映画監督、適職を俳優にしています。映画監督が一番です。俳優をやめると生活が成立しなくなるから天職と適職に分けてやっているんです。2000年に映画会社「ゼロ・ピクチュアズ」を作り、今日まで潰れないできている。これからもしっかりやらないといけないと思っています。

 長女の桃子は映画監督ですが、彼女には彼女の世界があると思っています。次女のサクラは存在感ある俳優としてやっています。今のところ、出演してもらうことは考えていませんが、「お父さん、監督やるんだって、私も手を挙げようかしら」と言ってくれれば別です。

 ――「プレバト!!」(TBS系)で活躍する俳人、夏井いつきさんとの共著「よもだ俳人子規の艶」(朝日新書)が話題だ。

 この本では正岡子規の艶俳句を夏井さんと語り合いました。艶俳句という言葉は僕の造語ですが、お会いした時に「子規のエロスであり艶ですよね」と意気投合して、この俳句談議に救いの神が降りてきたと思いました。

 子規の傾城の句には驚かされました。辞書を引くと傾城は絶世の美女や遊女のことです。子規の句は300か400くらいあるのかな。僕は花魁や女郎という言葉は知ってるけど、傾城は知らなかったし、難しい字は辞書で調べて気を落ち着けて読んでみました。すると吸い込まれるように読むことができ、艶俳句というカテゴリーが出来上がったような気がしました。子規の句の映像や人物像が全部浮かんできて、楽しくてしょうがなかったですね。傾城の世界観をこれだけの量を詠んだ俳人は僕が知る限りいない気がします。

 対談ではこの世界なら僕も俳人として語ることができるし、話し出したら一気に進んで盛り上がりましたね。

 俳句をやり出したのは37年前かな。ひとりで詠むぞと思っていると「あっ、来た」という瞬間があって、それが大好きです。ウダウダと酒を飲んでいる時に降りてきたりとか。これまで俳句の審査員は何度かやらせてもらっています。目標にしているのは自分の持っている俳号を使うことです。以前、女性月刊誌で瀬戸内寂聴さんと対談した時に、「寂明」という俳号をいただきました。普段は「瑛二」ですが、これからは俳号をつける句と瑛二の句に二分していくと思います。

 句集を出す話を以前出版社からいただいたことがありました。僕は絵も描くので、句を右に、左にイラスト、絵を描くという形で。その10年くらい前から、この本でいうような艶俳句を詠んでいたので、それにイラストをつけたら面白いだろうなと思って、やりましょうというところまでいきました。

 ところが、監督もやるようになって仕事がメチャクチャ忙しくなり、立ち消えになりました。今なら艶俳句に特化したもので構成できる気がしています。いろんなやり方もあると思うしね。

 思ったこと、やりたいことをやらないと死ねない。この本が出たことでますますそう考えるようになりました。

 最後に、僕の艶俳句を2句──。

 雲を待つ
   月を隠して
      口づける 

 重ねれば
   艶も色づく
      桜かな  

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

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