「失われた貌」櫻田智也著
「失われた貌」櫻田智也著
冬の書店はミステリー小説がよく売れる。年末に大きなミステリー賞がいくつも発表され、大賞や上位だった作品に帯が巻かれ売り場で輝き出すからだ。年末年始のまとまった休みに長編ミステリーはぴったりだし、休みが明けた後でも大体2月ぐらいまでミステリーが売れる流れが続く。
私は書店員かつ芸人であり、日本推理作家協会会員でもあるミステリー好きなので忙しいと共にワクワクする時期でもあるのだ。小説家としてはまだまだ駆け出しなのでいつかはこの賞のランキングに自分の作品も食い込めるように頑張りたい。
ミステリー界ではこの時期の賞を1つ取るだけでも凄いことなのだが、直近で「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」の3冠を取った作品が現れた。とんでもなさすぎる。帯に賞のタイトルがそれぞれ書かれるのでごん太な帯になっていた。今回はそんな3冠ミステリー小説を紹介。
物語は妻と娘を持つ刑事日野の元に変死体が見つかったと連絡がくる場面から始まる。山奥で見つかったその遺体は顔を潰され、歯も抜かれ、手足も切断されていた。身元が分からないこの死体に翻弄される日野。そんな彼の前に一人の男子小学生、隼斗が現れ「死体は自分のお父さんかもしれない」と語りだす。彼の父親は10年前に行方不明になり、失踪宣告を受けている。果たして死体は隼斗の父なのか、そしてそもそもなぜ死体はここまで徹底して身元を隠されたのか。日野は思いがけないところから真相へ近づいていく。
メインとなる大きな謎はこの2つなのだが、この小説はとにかくミステリーとして無駄がない。あそこの場面、セリフがここにつながるのか! という興奮が1つや2つではなく無数にあり、ドラマとしての盛り上がりも随所にあるので読む手が離せない。その上で刑事物特有の緊張感と格好良さは全く損なわず十二分に出ているし、主人公の日野が家庭を持つ父親だからこそのリアルな心理描写も見事なものだ。
一見地味な話に思われかねないこの小説がここまで評価されたのは、ミステリー小説として全く無駄のない奇跡的なバランスで出来ているからだろう。読めばのめり込むこと間違いなしだ。 (新潮社 1980円)



















