「90歳、男のひとり暮らし」阿刀田高著

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「90歳、男のひとり暮らし」阿刀田高著

 著者は現在単身生活。妻が認知症を患い施設に入って以来、家事全般は自分でやっているという。実は30歳で結婚するまで洗濯、掃除、炊事をやっていたからお手の物だ。食事は3食とも自炊。70年前の杵柄で豚汁、おでん、親子丼までつくる。出来上がりは「まあまあ」だが食べてしまえば終わること、と屈託がない。

 友人に「老人にはキョウヨウが大切なんだ」と言われてから、「今日の用」を意識し、眠れないときは源氏物語の全54帖や小倉百人一首を頭に思い浮かべる。買い物は面倒なうえに下手で、買ったはいいけど使いにくいのは日常茶飯事。これぞ真に怠け者の証しだが、この短所も怠けて深くは考えない。老齢は「仕方がない」が多くていい──。

 90歳の著者が「まあまあならそれでいい」と老齢の衣食住を楽しむコツを伝授するエッセー。単身=孤独と思われがちだが、落語や漢字を遊び、歌謡曲も楽しむ姿からは、老いを受け入れつつ日々を楽しむ姿が伝わってくる。巻末には、亡くなった妻への思いをつづった「ありがとう」も収録。寂しいが「妻より先に死ねない」という懸念が消え、楽になったという。「仕方がない」と前向きに手放す様子に励まされる。 (新潮社 1870円)

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