「人類学者が教える性の授業」奥野克巳氏

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「人類学者が教える性の授業」奥野克巳著

 フェティシズムやホモセクシュアルなど、時に“不自然”とされてきた性にまつわる傾向。しかし人類学の視点から見れば、これらは進化の結果生まれた“自然”なことだという。本書では、さまざまな研究や文献から性を掘り下げ、人類そのものへの理解を深めようと試みている。

「セックスは極めて身近であるにもかかわらず、大っぴらに語ることは憚られてきました。しかし好事家趣味ではなく、生物進化という縦軸と、比較文化的視点という横軸とで考えると、その奥深さが見えてきます」

 著者による大学での講義を基に編集された本書。人間のセックスを理解するための前段階にある、霊長類の交尾=セックスについての記述からすでに引き込まれてしまう。

 例えば、乱交的な集団を形成するボノボの例である。メス同士が性器を擦りつけあう「GGラビング」や、オス同士が尻を触れ合わせる「尻つけ」などさまざまな性的行為が行われる他、子づくりに関わるセックスも頻繁に行われる。

「霊長類には、前ボスの子供のオスを殺す種も見られますが、ボノボにはこれがない。同性間で行われる性的行為で社会内のわだかまりを解消したり、乱交によって“父親が誰か分からない社会”を形成することで、子殺しを回避していると考えられます」

 ボノボは、性皮が腫れるなど発情徴候も目立ち、発情期間も長い。複数のオスと交わるために好都合だからだ。一方で、一夫一婦制的な関係をつくるオランウータンなどは、発情徴候が目立たず期間も短い。

「性ホルモンによる支配からもっとも外れているのが、私たち人間です。他の霊長類のように発情徴候はなく、しかし年中セックスできるという特異性により、驚くほど多様な性文化が見られます」

 発情徴候という刺激を得ない場合、オスは体の特定の部位などに刺激を求めざるを得なくなる。また、性的興奮を覚える相手がメスでなくてもよくなる。本書では、フェティシズムやホモセクシュアルには発情徴候の喪失という同様の根があると分析している。

 本書後半から展開される、世界のセックスの比較文化考察も驚きの連続だ。例えば、高地ニューギニアのある地域では、人生における通過儀礼を通じ、7~15歳の少年期はホモセクシュアルとして生きるという。

「少年たちは大人の男性としての生殖能力やたくましさを獲得するため、年長の男性にフェラチオを施し、精液を体内にため込んでいきます。やがて、結婚して妻とセックスするようになるとバイセクシュアルに、そして父親になるとヘテロセクシュアルになるというフェーズをたどります。この儀礼的同性愛は、私たちの社会が知る同性愛とは本質的に異なっていると言えます」

 他にも、子供の健やかな発育のため妊娠中に複数男性とセックスするなど多様な性文化について考察されていくが、女性割礼を取り上げた性器変工の章では、文化の重要性とその是非について考えさせられる。

「人間の営みをカタログ的に楽しむだけでなく、特異性と多様性の根本を知ることで、新たな発見や思考につなげていただければうれしいですね」

 セックスのことなど知り尽くしているとお考えのご同輩にこそ、お薦めしたい一冊だ。 (早川書房 1320円)

▽奥野克巳(おくの・かつみ) 1962年生まれ。立教大学異文化コミュニケーション学部教授。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。2006年からボルネオ島の狩猟民プナンのフィールドワークを行っている。著書に「これからの時代を生き抜くための文化人類学入門」「はじめての人類学」「ひっくり返す人類学」「入門講義 アニミズム」など多数。

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