渡部陽一さんが語る平和への思い「戦争がなくなったら学校カメラマンになりたい」

公開日: 更新日:

渡部陽一さん(戦場カメラマン/51歳)

 ウクライナには13回取材に出かけ、戦争が始まってからは8回出かけた戦場カメラマンの渡部陽一さん。折しもパレスチナとイスラエルの紛争が勃発したが、「晴れ、そしてミサイル」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓というタイミングで、お話を伺うことができた。夢は学校カメラマンになることだ。

 ◇  ◇  ◇

 パレスチナはつねに情勢が動いています。今回の事件の背景にも伏線がいくつかあります。

 一つは中東の国々がイスラエルと国交を正常化させる動きです。サウジアラビア、UAE、カタール、モロッコ……。とくにサウジアラビアがアラブ諸国の盟主を名乗っていながら、パレスチナの土地を奪っているイスラエルと手を結ぶ。ガザ地区のイスラム過激組織ハマスはアラブ諸国に見捨てられるという危機感があったと思います。それが今回のアクションにつながった。

 もう一つはイスラエル国内の問題。政権与党のリクードが司法改革を強行したことです。裁判所の三権分立の判断を政権側が勝手に覆すことができる法案を強行したことで国民が反発した。さらに軍部の中にも反政府勢力があり、今回の事件の前に軍部に招集をかけたのに、命令に従わないことがあって指揮系統に乱れが出ていました。それで世界トップクラスの防衛線を持っているイスラエルがハマスの攻撃をキャッチできなかったというものです。

 さらに昨年からガザ地区ではない、ウエストバンク、ヨルダン川西岸の街でイスラエル軍がパレスチナ人300人くらいを殺害する事件が起きていました。昨年から10月7日に至るまで繰り返し衝突が起こっていた。イスラエルとパレスチナはここ数年では最悪の関係になっていました。

 私はこれまでイスラエルとパレスチナの両方に入っています。エルサレムは国際管理下にありますが、イスラエルが軍事制圧をしていて、パレスチナ自治政府もこれに対抗して動いています。2000年代の前半、最近では20年です。当時のトランプ大統領が独断でイスラエル寄りの和平案を強行し、パレスチナのうねりがグワッと広がりました。私がパレスチナに入ったのはコロナが始まる直前の20年1月です。その時にパレスチナの住民がデモをやったり、自治政府が声明を出したりしたことも今回につながっています。あの時はデモやエルサレム旧市街でのイスラエル軍との衝突をカメラに収めました。

 サウジアラビアの動きも注目です。周辺諸国の混乱、石油や天然ガスだけに特化した資源外交をムハンマド皇太子が変えたことも大きい。アラブだけではなく、中東全体が石油依存の政治体制から周辺諸国の連帯によって外交力を強めていくというロードマップを組み上げてきた。その一つの力になったのがイスラエルと国交を回復させることでした。

 これに対して、パレスチナ自治政府からは交渉の引き出しがイスラエル側と広がるのではないかと期待の声が上がりました。しかし、ガザ地区のハマスはより軍事的な武装組織で、基本的にアラブの聖地であるエルサレムをイスラエルが管理していくことを認めないというスタンスです。アラブの盟主のサウジアラビアがイスラエルと手を組むのはイスラム教徒として神への冒涜であり、そのことに反発したハマスと自治政府が分離してしまった。ハマスの暴走の背景にはサウジアラビアやイスラエルと敵対しているイラン、レバノン南部にいるイスラム教シーア派の組織、ヒズボラなども今回のハマスのアクションと連動していると指摘されています。

 ガザ地区は種子島とほぼ同じ面積です。その中に約200万人が暮らしている。人口密度の高さではバングラデシュかガザ地区かといわれるほどです。衛生面などは人が暮らす環境ではない。電力はイスラエルから送ってもらっていますが、今回遮断されました。住んでいるのはほとんどが若い人で、雇用も50%近くがない。天井のない監獄といわれるように国境地帯を越えることができないので、外の世界も見たことがない人たちです。それでも、今回、人質を取ることができたのは、パスポートを取って工事現場で働いたり運搬の仕事をしてイスラエルに出稼ぎに行っている労働者の情報共有があったからです。そのパイプで地上戦を展開して100人以上を拉致することができた。完全なヒューマンシールド、人間の盾ですね。

 今、ハマスがやっていることは70年代、80年代のアラファト議長時代のPLOと何ら変わりません。やったらやり返すというクラシックなテロ攻撃です。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  3. 3

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  4. 4

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  5. 5

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  1. 6

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  2. 7

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  3. 8

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも