「俺たちは虚実、皮膜紙一重を泳いでいるわけだ」…表舞台に出たことのない芸能界の首領たちの生声
川村は京都大学経営管理大学院の講義で、田辺エージェンシーを〈日本の音楽事業所業界、芸能プロダクションやレコード会社などのあらゆる分野の人が集まって作った、最初の近代プロダクション〉と評している。長らく田辺エージェンシーの屋台骨となっているのは、タモリこと森田一義である。
田辺は、ザ・芸能界で最も研ぎ澄ました言葉を持つ男である。タレントのマネジメントでは“顔”が重要であることをこう表現した。
「田辺さん、アンタじゃなくてもいいよって言うと素っ気なくなってしまう。あなただから我慢するけど、他の人はそうはいかないよって。それが面白くてやっている。その極致が表現者ですよね。マネジメントもそれに似ている。実際は(タレントが)大したことがなくても、虚実皮膜を行き来させることで、華麗に見せる」
「虚実皮膜」とは近松門左衛門の言葉で、事実と虚構がせめぎ合う微妙な狭間に、芸術上の真実があるという意味だ。
「(芸能界は)全部、想像と空想と錯覚の世界なんだよ。俺たちは虚実、皮膜紙一重を泳いでいるわけだ」