近年の『M-1グランプリ』は優勝より過程が面白い?『タイプロ』のような“熱狂”が生まれる理由

公開日: 更新日:
コクハク

年末の風物詩となった『M-1グランプリ』

 年末の風物詩『M-1グランプリ』(ABC・テレビ朝日系)。8月から1回戦が開始し、現在早くも3回戦の真っただ中です。

 2回戦では22年ファイナリスト・男性ブランコ、R-1王者・お見送り芸人しんいちと準優勝のZAZYのユニット・ストレス、THE W王者・オダウエダが敗退するなど、今までにないシビアな熱い戦いが繰り広げられています。 

 今年は、昨年ファイナリストのバッテリイズ、エバース、ママタルトが多くのテレビに出演し、大人気になりました。近年はファイナリストにとどまらず、準決勝、いや、それ以下で敗退した芸人さん達も、各バラエティー番組で顔を見せるようになっています。

 まるで予選の過程含めてM-1まるごとが、バラエティーのスターを誕生させるオーディション番組になっているかのようです。

【関連記事】令和ロマンくるま、吉本退所でも絶好調の今。もう一度「M-1」優勝を狙ってみてはどうか

話題の「オーディション番組」との共通点

 プロジェクトのデビューメンバーを決めるという最終目標はあれど、過程がひとつのコンテンツとなり人気となっている昨今の大規模グループオーディション。

『THE TIME』(TBS系)内で放映されたSKY-HI主催の『THE LAST PIECE』や、「歌詞忘れてるようじゃ無理か。歌詞はね、入れとかないと」という名言も生まれた『timelesz project』、ちゃんみなや出演者の信念や熱い言葉が多くの女性の心を掴んだ『No No Girls』などが近年では話題となりました。

 オーディション自体の注目度が高まることにより、合格者のみならず、最終的に選考から落選したメンバーもデビューし、活躍しています。『PRODUCE 101 JAPAN』ではIS:SUE、『timelesz project』のROIROMなど、“落選組”がデビュー。

 そもそも、オーディションの過程をエンタメした“祖”と言っても過言ではない『ASAYAN』(テレビ東京系・1995~2002年)で生まれたモーニング娘。も、「シャ乱Qロックヴォーカリストオーディション」の落選者から選抜されたメンバーであることはおなじみですね。

無名時代から「見守る楽しさ」も

 過程を可視化することで、参加者のキャラクターが浮き彫りになり、誰もに感情移入をしやすくなる。まるで参加者の親になったかのような当事者感がでる。

 落選者にも注目が行くことで、プロジェクトがさらなる盛り上がりを呼び込める――そして、見守っているだけなのに、どこか「自分は前から知っている」と優越感を抱くことができる。近年のM-1も、そんなオーディション番組のようです。

 M-1では、数年前から各会場1回戦のTOP3通過者がYouTube上で公開され、その後、3回戦、準々決勝の動画が逐一アップされています。(敗退者のみ。昨年までは3回戦通過者も公開)この動画はファンのみならず、業界人も注目し、「全組見る」という人も珍しくありません。

 面白かったコンビはXなどでネタと共に拡散され、話題になることもしばしばです。ここから注目を集め、メディアから声がかかってきたコンビも多数います。

 現在、ドラマ、音楽活動に大忙しのサーヤさんが所属するラランドは、2019年にアマチュアながら準決勝まで進出し、業界内の話題を集め、メディアに出るようになりました。

 演劇・コントユニット・ダウ90000も、M-1の1回戦動画で爪痕を残し、業界内に存在が気づかれた結果、その他の活動も注目されていったようなものです。

 令和ロマンも、魔人無骨というコンビ名だった無名時代に再生回数で進出者を決めるワイルドカードで疑惑の?(一番TOPに動画が配置されていた)準決勝進出をしてから、ことさらM-1ファンに一目を置かれていました。

 昨年、準決勝に進出した大阪吉本所属の例えば炎は、まだ芸歴5年程度の無名漫才師でしたが、彼らは、2022年のM-13回戦で敗退したネタの評価がお笑いファンの中で異常に高く、それをきっかけとして今年はTBSチャンネル1で冠特番が放映されるほどに。

 M-1は予選から宝探しの場所です。ファンはそこから原石を見いだし、のちに活躍していく姿を見守るまでが年末で終わらないM-1の楽しみなのです。

優勝よりも「爪痕を残す」ことに賭ける

「M-1は優勝するより、爪痕を残すための手段」だと言いきる芸人さんも多くありません。通過するより、M-1予選動画でバズったり、ネタを見てもらうことを目的としている芸人さんも数多くいます。

 阿部寛ものまねや、ニューヨークの漫才コピーをして話題になったラ・パルフェがいい例です。

 現在公開されている1回戦TOP3では、闇営業問題でYouTuberに転身した宮迫博之さんの息子さんのコンビ・マイケルジェニー、3月に解散したものの再結成し、他の1回戦参加者とは格の違いを見せつけていたパンプキンポテトフライ、ファイナリスト・ダイヤモンドの小野さんと、セミファイナリスト・コマンダンテの石井さんが結成したCITYなどのネタが話題になっています。

どんなスターが生まれるか

 今年は、例年とレギュレーションが変わり、1回戦TOP3を除き、通過者は公開されないとアナウンスされています。上位を狙う芸人さんからは「ネタバレしない」と好評ですが、今後の注目度にどう影響するかは見ものです。

 はたして、今年はM-1からどんなスターが生まれるでしょうか。今から楽しみでたまりません。

(小政りょう/ライター)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度不倫の山本モナ 年商40億円社長と結婚&引退の次は…

  2. 2

    日本ハムFA松本剛の「巨人入り」に2つの重圧…来季V逸なら“戦犯”リスクまで背負うことに

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    「ばけばけ」好演で株を上げた北川景子と“結婚”で失速気味の「ブギウギ」趣里の明暗クッキリ

  5. 5

    「存立危機事態」めぐり「台湾有事」に言及で日中対立激化…引くに引けない高市首相の自業自得

  1. 6

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  2. 7

    (2)「アルコールより危険な飲み物」とは…日本人の30%が脂肪肝

  3. 8

    西武・今井達也「今オフは何が何でもメジャーへ」…シーズン中からダダ洩れていた本音

  4. 9

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  5. 10

    高市政権の物価高対策はパクリばかりで“オリジナル”ゼロ…今さら「デフレ脱却宣言目指す」のア然