著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。最新刊は「酒好きの記」(集英社新書)

(46)蕎麦屋からバーへ

公開日: 更新日:

 店をひとりで切り盛りしているバーテンダーは、この道40年以上のベテランで、バーテンダー界でも有名な人物。カクテルの技だけではなく、会話もキレがよく、媚びず、もちろん、威張らないから、とにかく居心地がいい。

 店には音楽がかかっていない。店内にある音は、ミキシンググラスをかき混ぜるときの、グラスと氷が触れる音。シェーカーの中の氷がたてる大きな音。そして客同士、あるいは客と店主との会話の声だけである。ときおり、誰も話さないと、煙草に火をつけるためのライターの音が聞こえることもある。

 マティーニ、マンハッタン、サイドカーと、スタンダードを立て続けに頼む。暗い店内では、バックバーを照らす灯りがボトルに反射して、グラスの中の酒に映る。ああ、きれいなだなと思うとき、まだまだいくらでも飲めそうな気がしている。

 それは客人も同じだったようで、ふたりの酒は、ラストオーダーまで続いた。代々木上原の駅で、客人が千代田線のホームへ行くのを見送り、私は、小田急線ホームへの階段を上がった。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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