「王様のためのホログラム」かつての「絵になる老い」とは別の魅力

公開日: 更新日:

 年寄りの俳優を「いぶし銀のような」と呼ぶ決まり文句があるが、これが似合わないのがトム・ハンクスだ。

 悪口ではない。もともと童顔の上に無理に若作りしないとあって、還暦の声を聞くころから、ごく普通の男たちの「人生の疲れ」を体現できる珍しい存在になったと思うからだ。特に「スプラッシュ」や「ドラグネット」の若手時代を知る身としては、かつての大人世代の「絵になる老い」とは明らかに違う、いまどきのやつれを感じるのである。

 そんなハンクスがミステリー物から一転、まさに等身大の男を演じるのが今週末公開の「王様のためのホログラム」である。

 営業一筋でやってきた男がグローバル化のあおりで転職を迫られ、女房に三くだり半と娘の学費まで要求されて立ち往生。なぜかサウジアラビアの王族のもとに営業に出たものの……という粗筋は実はあまり意味がない。ちりばめられた笑いも抱腹絶倒ではなく初老のためいきを誘う微苦笑のたぐいで、若者が見てもさっぱりわからないのじゃないかとさえ思ったほどだ。で、その果てにくるクライマックスがハンクス自身の出世作「スプラッシュ」を思わせるというあたりも「知る人ぞ知る」面白さなのだ。

 ただし、である。この物語、よくよく考えると男の視点からだけ見た結構、都合のいい話でもある。佐藤愛子著「院長の恋」(文春文庫 543円+税)は最近話題の老作家らしい、辛辣と諧謔の詰まった女の視点による「老いらくの恋」物語。このリアルで不気味な笑いの前では、ハンクス世代もまだまだ青臭いものだなあと思うのである。
〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  5. 5

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  1. 6

    「好感度ギャップ」がアダとなった永野芽郁、国分太一、チョコプラ松尾…“いい人”ほど何かを起こした時は激しく燃え上がる

  2. 7

    衆院定数削減の効果はせいぜい50億円…「そんなことより」自民党の内部留保210億円の衝撃!

  3. 8

    『サン!シャイン』終了は佐々木恭子アナにも責任が…フジ騒動で株を上げた大ベテランが“不評”のワケ

  4. 9

    ウエルシアとツルハが経営統合…親会社イオンの狙いは“グローバルドラッグチェーン”の実現か?

  5. 10

    今井達也の希望をクリアするメジャー5球団の名前は…大谷ドジャースは真っ先に“対象外"