七月隆文(作家)
5月×日 専門学校のノベル科で講師を始めた。売れるための企画作りからプロット(話の構成)までを教える予定だ。
後進を育てたいという思いが以前からあった。私自身、師に教えられたおかげで今があるという感謝があるからだ。特にプロットはコツを体得する必要がある「技術」の側面が強い。与えられた技を引き継いでいかなくてはならない。それに、「教える側が教えられる」という現象にも期待している。
というわけで先月最初の授業に臨んだのだが、思った以上に生徒たちが真剣に内容を聞き、課題に取り組んでくれた。こういった専門学校での色々な話をネットなどで目にしており、正直もっと悪い事態も想定していた。うれしい誤算だ。
今回紹介する本は、授業の教材を探した際にみつけたもの。松下龍之介著「一次元の挿し木」(宝島社 900円)。
あらすじが抜群に面白い。ネットか書店でぜひ確かめてほしい。「面白そう」となること請け合いである。これは編集者がいい仕事をした。
あらすじがキャッチな作品は売れやすい。皆さんも本を買うとき判断材料にすることが多いのではないだろうか。本を売るために極めて重要な役割を果たしている。
だが編集者も元となる話がなければあらすじは書けない。つまり惹きのあるあらすじが書かれるためには、作家がそもそも面白い筋立てを作る必要がある。授業ではこういった考え方を教えている。
本書のページをめくると、冒頭の3行からもう面白そう。これが処女作とのことだが、作者がすでに「読者を引き込もう」という目線を持っていることがうかがえる。あらすじで掲げられた謎の真相も、なるほどと腑に落ちるものだった。
ヒロインである唯のコミカルミステリーのような軽い造形や、クライマックスであれもこれもと欲張った所は気になったが(いずれもやりたい気持ちはすごくわかる)、デビュー作でここまで書けるのは素晴らしい。次作が楽しみである。