「科学的思考入門」植原亮著/講談社現代新書(選者:佐藤優)

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主張の弱点を常に意識することが大事

「科学的思考入門」植原亮著/講談社現代新書

 植原亮氏は、自然科学、人文・社会科学の双方を学ぶ人にとって必要な知識についてわかりやすく解説している。

 大学生はもとより、中学校、高校で生徒たちに「思考の哲学」を教えるための優れた教材になる。中学・高校の教師が教育の現場で活用すると、生徒たちの思考力が飛躍的に高まると思う。

 特に重要なのは、学問においては反証主義的手続きが不可欠であることだ。

<反証主義から科学的思考に関する一般的な教訓を引き出しておこう。ひとつは、ある意味で否定的な事柄について考える能力が重要だということである。アインシュタインは、その発想力もさることながら、自分の理論がどうしたら誤りであることが示されうるのかを完全に明確に述べることができたという。ただ単に他の人と違った考え方をするだけでなく、何が反証になるかを見きわめる能力にも長けていたのだ>

 自然科学でも人文・社会科学でも専門家は自らの主張の弱点(他人から論破される可能性のある点)を常に意識している必要があるのだ。評者の経験では、外交に従事する優れた政治家と官僚には反証主義的な気構えがある。だから情勢の変化に柔軟に対応することができるのだ。対して、国際政治学者は自分の立場に固執し、客観的なデータを提示されても見ようとせず、実証的な批判に対して強弁で答えることが多い。

 重要なのは、どのような言説も仮説であるという認識を専門家間で共有することだ。

 植原氏の<科学で主張されることは、それが反証可能性を有する限り、どこまでも「仮説」であることを受け入れなければならない>という見解を評者も全面的に支持する。

 2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争以降、日本の新聞やテレビでは、「こうあってほしい」という願望に基づく記事やコメントであふれている。こういうときにこそ、読者一人一人が反証主義的視点から、マスメディアで主流になっている言説を検証することが重要になる。新聞やテレビの報道や解説をそのまま信じていると、判断を誤り、結果として、自分が損をすることになるからだ。 ★★★

(2025年6月25日脱稿)

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