夏バテ対策!グルメ時代小説特集
「お江戸薬膳出前帖」倉阪鬼一郎著
連日の猛暑で、梅雨が明ける前から早くも夏バテ気味で食欲が落ちている人も多いのでは。そんな落ちた食欲を読書で回復させるのはどうだろう。今週は、おいしそうな料理が次々と登場する時代小説を選んでみた。
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「お江戸薬膳出前帖」倉阪鬼一郎著
医者の幸庵は、薬だけでなく身の養いになる食べ物の知識を示し、患者たちを本復に導いてきた。
幸庵の父・辰太郎は、かつて名のある料理屋で花板を務めていた料理人だった。妻に先立たれた悲しみを乗り越え、隠居所を兼ねた小さな料理屋を開こうと幸庵の診療所の隣で見世を開く準備を進めていたが、病で亡くなってしまう。幸庵は、休診日に父が残した旬屋という見世に立ち、薬膳料理を提供することに。
薬膳料理は、すべての食材が秘める身心に与える効き目を知り、季節や食べる人の身に合わせてあんばいする料理のことだ。初日、幸庵は父の常連客だった戯作者や醤油酢問屋、下り酒問屋の隠居など集まった客を、筍の木の芽和えと蛤の生姜蒸し、筍飯、独活の酢味噌和えなどでもてなす。
さらに幸庵は、元飛脚の弟・信助の力を借りて希望する患者たちに薬膳料理の出前も始める。
読むだけで体に良い薬膳料理の知識が身につく時代連作小説。 (実業之日本社 836円)
「お茶漬けざむらい」横山起也著
「お茶漬けざむらい」横山起也著
お城勤めの武士・未明は、深川の人気芸者・お蜜から、料理屋で行われる「舌試し」の献立を考えてくれと頼まれ、頭を抱える。何でも、義一という初老の素封家が彼女にご執心で、連日宴席に呼ばれたという。
そのうち、義一は同業者の芸者や幇間を呼んでお蜜を客としてもてなしはじめ、気味が悪くなったお蜜が居留守を使うと、今度はお蜜の弟が働く料理屋に素行の悪い男たちを連れ、入り浸るようになった。料理屋の主人が談判すると、義一はただお蜜に会いたいだけだと訴え、舌試しでお蜜の作った料理に納得できたら、これ以上、お蜜を追い回すのをやめると約束したという。しかし、未明は仲間に振る舞う程度の腕前で、お茶漬けと汁物ぐらいしか人に褒められる料理はない。友人の絵師・仁鶴に相談すると、義一をよく知る仁鶴は、義一の心のこわばりを解きほぐすには未明のお茶漬けが効くはずだと言い出す。
お茶漬けで人々の心を解きほぐす未明が難問を解決する幕末グルメ小説。 (光文社 814円)
「桜ちらし 花暦居酒屋ぜんや」坂井希久子著
「桜ちらし 花暦居酒屋ぜんや」坂井希久子著
その朝、熊吉が奉公する本石町の薬種問屋・俵屋では、朝食に6種もの具が入った御事汁が供される。小僧たちは大喜びだが、御事汁は正月の準備を始めるお事始めの12月8日の献立で、この汁が出るということはこの先は目が回るほど忙しくなるのだ。
熊吉が行商箪笥を背負い店を出ると、事始めの日に出るという一つ目の妖怪「大眼」対策の魔除けの目籠が各家に掲げられている。大眼によって履物に判子を押された人は、翌年、悪い病気になると信じられているのだ。
その日、熊吉が昼食のために神田花房町にある行きつけの居酒屋ぜんやに顔を出すと、大眼にかけて眼張の煮つけが出てきた。熊吉は、看板娘・お花の足の裏が汚れているのに気づく。見ると履物に判子が押されていた。
養母のお妙を継いでぜんやの女将になることを夢見るお花を主人公に描く時代人情シリーズ「花暦 居酒屋ぜんや」シリーズ第8弾。 (角川春樹事務所 704円)
「輪島屋おなつの寄添いこんだて」馳月基矢著
「輪島屋おなつの寄添いこんだて」馳月基矢著
おなつは、深川宮川町に店を構える郷土料理屋、輪島屋に住み込みで働いている。店は輪島出身の七兵衛とおせん夫婦が営み、母親が金沢の武家出身のおなつが作る郷土料理もなかなかの評判だ。
ある日、おなつのいとこで加賀藩士の紺之丞が、加賀藩上屋敷に暮らす友人の伊藤虎白を輪島屋に連れてくることになった。
大勢の供を連れ、駕籠に乗って到着した虎白は男装のおひいさまだった。その日、輪島屋が紺之丞たちに用意した献立は、さざえ飯と鰯のだんご汁、鰯の卯の花ずし、金時草とあさりの和えものだった。江戸育ちの虎白は加賀のことをもっと学びたいとおなつに話しかけてくる。
翌月、加賀藩上屋敷で働く中間が店に飛び込んできた。聞くと、白山権現にお参りに行くと出かけた虎白とそのお目付け役として行動を共にする紺之丞の行方が分からなくなったという。
輪島の郷土料理が人気の「深川ふるさと料理帖」シリーズ第3弾。 (徳間書店 836円)