中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<22>村瀬の指示は非情だが的確

公開日: 更新日:

 長山瑞穂所有のパソコンは既に押収され、こちらの解析も始まったという。だが本体に埃が被っているようでは、有益な情報はあまり期待できそうになかった。

「夫の長山富秋と長女亜以子についての鑑取りは本日から始めます」

「家族二人については周辺調査とともに尾行をつける。安楽死が狂言であり、引き出した現金をどちらかが、あるいは共謀して詐取した可能性も捨てきれない。しばらく二人の行動から目を離すな」

 村瀬の指示は非情であるものの的確と言える。瑞穂には自分名義の口座に蓄財がある。だが、これは本人の治療費に消費される一方であり、治療が長引けば長引くほど目減りしていく。将来の生活に不安を覚えた富秋か亜以子がドクター・デスの模倣犯を装い、瑞穂の口座から現金を引き出してそのまま着服する。そもそも二百万円の引き出しが瑞穂の依頼だというのは家族の証言でしかなく、事実と裏付ける証拠は皆無だ。

 同居家族による個人財産の詐取は特段珍しい話ではない。従って村瀬の指示は決して的外れでも穿ちすぎでもない。捜査本部を束ねる者の判断として妥当と犬養は評価する。

 だが犬養の横でじっと話を聞いていた明日香は納得していない様子がありありと窺える。自身への中傷を耐え忍ぶように唇を固く引き締め、こつこつと忙しなく人差し指で机を叩いている。

「やめろ」

 その手を上から押さえると、明日香は抗議の顔を向けてきた。

「要らんことで目立つな」

「でも。犬養さんも二人と話したじゃないですか。ご主人も娘さんも、瑞穂さんを亡くしてあんなに気落ちしていたじゃないですか。あの二人が瑞穂さんを殺すなんて」

「心証じゃなく可能性の問題だ。それにカネ以外の目的で彼女を安楽死させたという線も考えられる」

「おいそこ」

 すぐに麻生の叱責が飛んできた。

「私語を慎め。それとも今までの報告内容に何か疑問点でもあるか」

 麻生の叱責には別の意味が含まれている。不足している部分があれば、この場で補足しろという示唆だ。

「疑問点ではなく、別の動機による可能性がないかと話していました」

「どういうことだ」

「長山富秋と亜以子が共謀して瑞穂の安楽死に加担したというケースです。衰弱する一方の本人を見かねて安楽死を思いついたものの、現行の法律では殺人罪が適用される。それでドクター・デスの模倣犯を装い彼女を殺害する。二百万円の強奪こそが第三者の介入を印象づける狂言だった。そういう見方もできなくはないでしょう」

 犬養の披露した仮説に、静かなざわめきが広がった。

 (つづく)

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