中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<23>富秋と亜以子の動向から目を離すな

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 ただし捜査員たちのざわめきをよそに、壇上の村瀬は眉一つ動かさなかった。

「興味深い仮説であるのは認める。しかし今は証拠を拾い集めている最中だ。先入観を誘う発言は控えろ」

 村瀬のひと言で、席上は再び静まり返る。明日香が小声で話し掛けてきた。

「犬養さん。今の説、どこまで本気なんですか」

「本気も何も、可能性の一つだ」

 だが明日香が思うほど中身のある話ではない。カネ目当てであろうと患者の安寧のためであろうと、現象面では安楽死を強行したという点で何ら変わりはない。精々、情状酌量の余地を拵える程度の仮説に過ぎないのだ。

 報告が出揃ったところで村瀬が今後の捜査方針を告げる。

「鑑識は防犯カメラの映像解析を急げ。地取りも継続し、不審な人物を徹底的に洗うと同時に長山富秋と亜以子の動向から目を離すな。鑑取り担当はサイバー犯罪対策課と連携して、被害者が接触したと思しき安楽死の請負人の特定を急げ」

 サイバー犯罪対策課の三雲には、前回のドクター・デスの事件でもサイト管理者の居場所を掴むために協力を仰いだことがある。犯行態様が類似しているので同様に連携するのは理に適っているが、犬養でなくとも既視感が上積みされる感はどうしても否めない。

「積極的安楽死は医療倫理の問題と相俟って世間の耳目を集めやすい。それは前回のドクター・デスの事件で皆も知っている通りだ。今回の事件はその模倣である可能性が高い。そしてこの手の模倣犯は早期解決させなければ雨後の筍のように、後から後から湧いて出る。世間の耳目を集めるというのは、模倣犯の続出が警察の不手際に映りかねないということを意味する」

 村瀬の口調が矢庭に張り詰めた。

「警察の威信云々の問題ではない。不手際だと喧伝されればされるほど模倣犯が増え、結果として被害者が増える。いいか、捜査の遅れがそのまま被害者の増加に直結するんだ。起こってから後悔しても始まらん。今この時に全力を尽くせ。以上」

 解散の声を合図に捜査員が一斉に立ち上がり、各々の方向に散っていく。犬養は麻生が雛壇から下りる前に近づいた。

「俺は下谷署の捜査員と現場を回ろうと思います」

「何か思いついたのか」

「推理というほどのものじゃありませんが」

 ケースに応じて遊軍として動ける程度には信頼されているという自負がある。果たして麻生は仏頂面をしたまま、承諾の意で片手を振ってみせた。

「報告は怠るな。で、高千穂は同行させないのか」

「高千穂にはサイバー犯罪対策課に合流してもらいます。あいつは三雲課長とウマが合いそうですから」 (つづく)

【連載】ドクター・デスの再臨

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