池上季実子がドラマを憂う 「最近は深みある物語が少ない」

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 長い黒髪をかき上げるしぐさにグッとくる。池上季実子(55)が今月、「向き合う力」(講談社現代新書)を上梓した。自身初のエッセー。デビューから40年、「仕事に恋してきた」と話す本格派女優はドラマ制作の現状を憂えている。本人に聞いてみた――。

■「トレンディードラマの影響かもしれません」

 田中絹代さん、森繁久弥さん、山岡久乃さん、緒形拳さん、そして高倉健さん、京マチ子さん。名優と呼ばれる先輩方から多くのことを学びました。私たちは古き良き時代を肌で感じるギリギリの世代なのかもしれません。偉そうなことはいえませんが、ただ、お芝居するのが好きなんです。役者業に邁進したい。けれど、はてさて私の居場所はあるのかなあ、と。それが「女優・池上季実子」の今の悩みですね。

 コスト意識を持つのは悪いことではないでしょう。ただ、経費削減の影響でドラマづくりは様変わりしています。それがプラスに働いているとはいいづらい、かな。たとえば、クランクインまでの準備期間の短さです。作品によっては台本がクランクインの直前に届くなんてこともある。そうなると納得のいく役づくりはかなわなくなってしまう。もちろん、いい作品をつくろうとギリギリまで調整が続いているからこそなんですが……。

 設定が初夏のドラマなのに、衣装として用意された着物は袷のみ、なんてこともありました。新たに単衣を提案すると時間と予算が足りないといわれ、自前をお願いされて……。

 ドラマは今、元気がありません。それは私たちが演じていたトレンディードラマが少なからず影響しているかもしれませんね。いつの頃からか都市の社会風俗を描写したり、おしゃれの感覚に引っ張られたりする作品が目立つようになりました。半面、人間の心のひだを凝視する「大人のドラマ」が少なくなってしまった。ストーリーとセリフの行間に思いをにじませる。そんな深みのある物語がうんと少なくなってしまったように思います。

 70年代、80年代の連続ドラマは、2クールで全26話が当たり前でした。最近は1クールで全10話ぐらい。長編のドラマは、はやらなくなっています。それが何を意味するのか。ドラマづくりは、放送期間が長ければ長いほど難しくなる。視聴者を飽きさせず、引きつけられ続けるか、役者とスタッフの実力が試されます。ただ、裏を返せば願ってもないチャンスでもある。長編のドラマづくりを経験することで、役者とスタッフは成長できるわけです。そうした場がなくなれば、魅力のある作品も減ってしまう。厚みのある作品はなかなか生まれません。

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