「遥かなる秋のエイティーン」三上幸四郎著
「遥かなる秋のエイティーン」三上幸四郎著
私は現在2つの書店で働いている。そのうちの1つが未来屋書店だ。主にイオンに入っている書店グループなので買い物のついでに寄ったことがある人も多いだろう。
イオンの中にあるからこそ「お客さんを巻き込んでのイベントがやりやすい」というメリットがある。基本書店という場所は狭いのだが、イオンの共有スペースが使える。そこで著者イベントが行えるのだ。
先日も板橋店で私と第69回江戸川乱歩賞受賞作家の三上幸四郎さんとのトークショーとサイン会が開催された。三上さんは脚本家でもあり、ドラマ「特命係長只野仁」やアニメ「名探偵コナン」など多方面で活躍されているのでさまざまなお話が聞けて私もお客さまも大満足のイベントになった。今回はそんな三上さんの最新長編を紹介したい。
本書は主人公の女子中学生、遥佳が新宿・歌舞伎町のハロウィーンに参加しているところから始まる。ひょんなことから悪漢に追いかけられた遥佳を助けたのは同じ年頃の少年、夕真。彼は毎年秋の始まりに現れ、秋の終わりと共に去る。失踪とかではなく物理的に「消失」するのだ。近年の猛暑でどんどん短くなる日本の秋。出会って以降毎年そのわずかな期間しか会えない遥佳と夕真。そもそもなぜ夕真はこのような特殊体質になってしまったのか。謎は思いがけないところから解かれていく。
かなり直球な青春SF。それでいてさすが乱歩賞作家とうならせるミステリーパートが中盤以降押し寄せてくる。
序盤、遥佳がVTuberとして配信を始めることになるのだが、過疎気味だった視聴者数がどんどん変化していくところは現代的な青少年の成長の見せ方だなと感じた。
ちなみに本書では漢字のルビが平仮名ではなくカタカナ英語になっている箇所がある「倍速」に「ダブル・スピード」、「集合体」に「アグリゲート」など。これは著者が敬愛しているとあるSF作家へのリスペクトが入っているとトークショーで聞けた。それぐらいSF愛があり、かつ名探偵コナンの脚本も書いているからこその躍動感のある青春ミステリー。著者の強みが存分に生かされている。
人生における10代の日々の尊さを改めて教えてくれる老若男女にオススメの一冊だ。 (講談社 2420円)



















