著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(9)東京の地酒

公開日: 更新日:

 酒の季節がやってきた。いやいや、私にとっては1年365日が酒であるから、いつでも酒の旬ではあるが、ここで言いたいのは、寒くなって酒造りの季節も本番になってきたということだ。

 今年は食米の価格も暴騰し、今後は増産だと言っていたと思ったら、生産量はお役所の市場予測によって決めますと後戻りして、その混乱が、もち米や酒米の生産現場や価格にも影響しているらしい。

 改革しますと言い切った人の後で農水省出身の人に万事うまくやってほしいと問題を投げた、これが結果だろう。鍋で米を炊いたことがない人や粥を炊けないような人も少なくないと想像される時代に、せめて米は安くて良質のものが充分に供給され、それをおいしく炊いて存分に食べようという方向へ舵を切らないと、和食の根底さえ崩れてしまうと思うのは、ひとり私だけだろうか。

 東京都酒造組合の資料を見ると、現在、東京には稼働している酒蔵が10蔵あるという。そのうちの6蔵、いずれも長きにわたり蔵の味を守る酒を醸している名蔵を、私は訪ねたことがある。取材を通じて知ったのは、多摩地区の5つの古い酒蔵は遠い縁戚にあたり、正月に酒造組合の新年会を開くと、参加者から法事みたいだねという話が出たりするらしいということ。三多摩地域はたいへん広い土地だが、そこにある5つの酒蔵が、この土地で生きた人々の日々の酒を供給してきたのだ。

 青梅の小澤酒造は「澤乃井」、五日市の野﨑酒造は「喜正」、秋川の中村酒造は「千代鶴」、福生の田村酒造場は「嘉泉」、福生の石川酒造は「多満自慢」、そして東村山の豊島屋酒造は「金婚」、いや今の主流は「屋守」か……。どれも、個性をしっかり守った地酒である。

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