夜の部「法界坊」猿之助筆頭にワンピース一座の若手が活躍
夜の部は、猿之助初役の「法界坊」。リアルだった世界がファンタジーめいたものに越境していく。こういうのは歌舞伎ならではだ。
法界坊は身なりは薄汚く、悪事を企むが失敗する小悪人で、いいところはひとつもない人物。それを「憎めない悪党だ」と、客に思わせなければならない。そのためには「笑い」が必要なわけだが、やりすぎるとドタバタ喜劇になってしまう。私が見たのは3日目だったが、猿之助は「歌舞伎座のお客さま」を相手に、どこまでハジけていいのか、様子を見ていた感じだった。
他の劇場に役者たちを取られてしまったおかげもあってか、法界坊では、巳之助、右近、隼人といった若手が大役を得て活躍。みな猿之助が「ワンピース」で抜擢し育てた役者たちだ。「『ワンピース』の一座が古典歌舞伎に挑戦!」と宣伝すれば、もっと客が入ると思うが、難しいのだろう。面白いのに、満席にはなっていなかった。
(作家・中川右介)