嶺里俊介(作家)
3月×日 「これ可能なの?」犯人が仕掛けたトリックについて、とある席で同業者から質問された。通信業界に身を置いていたので、多少は見識がある。呉勝浩著「爆弾」(講談社 1980円)。大都市東京を舞台にして次々と爆破事件が起きる。緻密に組まれた作品なので読み応えがあった。多視点からの描写で少しずつ謎が捲(めく)れていく。犯人側が駆使したのはIT技術と端末。そこで冒頭の質問が来たわけです。創作作品で嘘は当然。巨大生物は自重で動けないものの「ゴジラが現れた」の一言でねじ伏せる力業は常套手段。まして犯罪小説ならば実現不可能なトリックを展開するのはむしろ当然。模倣犯は勘弁。ビジュアル化で作品が映えました。演技も際立ち、映画が大ヒットしたのも頷けます。尺に制限がある映画なので情報過多気味でしたが、先に小説を読んでおいて良かった。犯人側が解説するトリックは「実現不可能」ですが、作品内で言及されていない別の理由でも現実的には無理。安心しました。
3月×日 光文三賞授賞式。第29回の日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したのは服部倫さん。式典の壇上で「人前で話すのは苦手」と語る姿は、まさしく物書きです。
「大阪ウェットランド」(光文社 1870円)は、現代の大阪を舞台にしたハードボイルド風作品。自身の体験を鏤(ちりば)めたという話のつくりは明らかにハードボイルドですが、若者たちが醸す空気に和みます。注釈なしでアニメやコミック作品の人物名が、ばんばん出てくる。「ひとつなぎの大秘宝を探しにいかなきゃなんねぇからな」は主人公の弁。まさに現代版冒険活劇でした。私自身は第19回受賞デビューなので、早十年。すでに隔世の感があります。時の流れは存外早い。いつまでも私の前を元気で歩いていた両親の背中も、齢八十八になると気づいてしばし呆然。掲載されている近影は父の撮影です。今年は兄弟で両親の米寿祝いの席を設けねば。いま目の前にあるものを大切にしようとの思いが募る今日この頃です。



















