大橋純子「なんじゃこりゃ!」初めて聴いたボサノバの衝撃

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セルジオ・メンデス「マシュ・ケ・ナダ」

「たそがれマイ・ラブ」や「シルエット・ロマンス」など、パワフルな歌唱力で1970~80年代の女性ポップス界を牽引した歌手の大橋純子さん(70)。人生を変えた曲はボサノバの「マシュ・ケ・ナダ」。ソロとバンドの両方を歩んできた音楽歴と重ね、思い出を語ってくれた。

■「体中に電流を浴びたような」

 中学、高校と音楽は好きでした。当時はビートルズやGSなどをラジオやテレビで聴いてました。

 ある日、学校から帰ってテレビをつけると、ステージに男女がいっぱい立っている外国のバンドのコンサートが映っていました。聴こえてきたのがこの曲。生まれて初めて聴いたボサノバのリズム。「なんじゃこりゃ!」と体中に電流を浴びたような衝撃でした。ワサワサとするサウンドに、ときめくような気持ちになりました。ボサノバは明るくポップで、リズムが心地いいですからね。

 テロップで「セルジオ・メンデスとブラジル’66」と出た名前を覚えて、即(!)町のレコード屋さんへ。といっても、田舎ですから、楽器も売ってれば貴金属も売ってる電器屋さんです(笑い)。私がお小遣いで初めて買ったアルバムです。

 プレーヤーですり切れるほど聴きました。他の曲もよかったけど、「マシュ・ケ・ナダ」が一番いい。思春期だったからボサノバの妖しい魅力というか、大人の世界をのぞき見したようなセクシーさも感じて、ドキドキしました。

 周りはビートルズが好きな人が多く、ボサノバを聴く人はいなかった。でも、アメリカではビルボードで100週以上、チャートインしていたと思います。今となってはこの曲を聴いたことがない日本人はいないのではないでしょうか。一時期だけヒットしたのではなくずっと聴かれ続けている曲。

 他のボサノバも聴いてみました。やっぱりセルジオ・メンデスがよくて、アルバムが出るたびに買ってました。日本でもピンキーとキラーズやいろんな方がカバーされてるらしく、好きな方は多いと思います。

 でも、私はボサノバで歌手になろうとは思いませんでした。だいたい歌手になろうなんて大それたことは思ってなくて……。

食道がんからステージ復帰直後にコロナ禍

 大橋さんは札幌の大学に進学し、軽音楽部でバンドに入る。卒業後に上京してからもバンドを組むが、74年のレコードデビューはソロになった。しかし、その3年後には「大橋純子&美乃家セントラル・ステイション」(※旧メンバーには後に「一風堂」メンバーの土屋昌巳、作曲家の佐藤健が在籍)でバンド活動を再開。翌78年に大ヒットする「たそがれマイ・ラブ」では、またソロになった。

 ソロだけど、大人数のフルバンドで歌っていたし、大学でのアマチュア時代にロックバンドをやった経験もあったから、「やっぱりバンドがやりたい!」と思い、1年で事務所を辞めました。

 セルジオ・メンデスのように、バンドの中のボーカルという位置が私の考えるボーカリストだったんです。

 それからは「大橋純子&美乃家セントラル・ステイション」で活動していたのですが、「たそがれマイ・ラブ」はドラマの主題歌(「獅子のごとく」TBS系)だったのでソロ曲の扱いになったのです(※カップリング曲はバンド名義)。

 ヒットしたがゆえにバンドとソロの岐路に立たされ、悩みましたね。売れてなければ、すんなりとバンドを続けていたでしょう。でも、今思えばそれから40年以上経っても、歌手でいられるのは「たそがれマイ・ラブ」や、「シルエット・ロマンス」(81年11月/第24回日本レコード大賞最優秀歌唱賞)という、ソロのヒット曲があるからなんですよね。

 それでもバンド活動は続けてきました。バンドにこだわりがありましたから。

「マシュ・ケ・ナダ」が入ったアルバムは今も持っています。私のボサノバのカバーアルバムにも入ってますし、歌手・大橋純子とは切っても切れない曲。

 2年前に早期の食道がんになりましたが、病気療養し、去年の12月にコンサートを実現させました。「ステージに立って楽しい!」と思った直後に今のような状況(コロナ禍)になり、今年予定していたライブがなくなりまして……。

 今はいたって元気ですが、年も年ですし、とにかくライブをやりたいのが本音。コロナが終息したら、どこででもいいから歌いたい。

▽おおはし・じゅんこ 1950年4月、北海道出身。74年「フィーリング・ナウ」でソロデビュー。ソロやバンドで多くのヒット曲を生んだ。2018年に食道がんを患うが、昨年、ニューアルバム「Terra3」をリリース。年末にはコンサート活動を再開。

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