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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

「わたしの若草物語」新作公開の英断 配給会社の狙いは?

公開日: 更新日:

 映画館が営業を再開し始めた。このまま順調にいき「東京アラート」が出なければ、6月以降、全国の映画館のほぼすべてで再開の見通しが立つという。うれしい限りだが、不安もある。複雑な心境だ。観客の方々に対する安全対策の徹底性など気になることも多い。少し前の作品や旧作を上映しているのが、今の映画館の現状だ。集客はどこも厳しいと聞く。座席の間隔をあけてチケットを売っている。観客側も、映画館に行くことの不安は大きいだろう。シネコンもミニシアターも同じである。

 話題性のある新作の公開が待望されるが、これがなかなか難しい。新作を出す配給会社も、客足の見込めない現状では公開してもどこまでの成果が上がるのか判断しづらい。そのような状況下でちょっとした英断を下した配給会社がある。ソニー傘下のソニー・ピクチャーズだ。新作公開を決めたのである。

 作品は、延期になっていた「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」で、6月12日から公開となる。世界的なベストセラー小説「若草物語」を題材にした4姉妹の話である。今年のアカデミー賞では、作品賞など6部門のノミネートを果たしている。

 同社の佐藤和志・映画部門日本副代表は言う。

「この状況下で本作を公開することに対しては、数字的なリスクは当然あります。ただ、むしろ映画業界が苦しい今だからこそ、公開すべきと決断しました。幸い、米国本社も今回の決断をサポートしてくれました。再び映画業界が活気を取り戻すため、そしてもちろん、新作を待ちわびているお客様の皆さまにしっかりと映画を届ける意味も大きいと考えています。我々がその先陣を切り、一歩前に進んでいくアクションを起こしたい」

 米メジャー系配給会社の作品としては、3月20日から公開された「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」以来、何と約3カ月ぶりの新作というからやはり目を引く。ハリウッド得意の娯楽大作ではないが、この時期でのハリウッド作品の公開は映画市場に弾みをつけてくれるものと期待したい。当初は200スクリーンほどでの上映を予定していたが、地方からオファーが相次ぎ、300スクリーンを超える規模での公開となる見通しだ。米メジャー系はどうしても本社の意向が強い。今回、本社を説得して公開にこぎつけたことは高く評価したいと思う。映画館関係者の喜ぶ顔が見える。

 ミニシアターでも、これから少しずつ作品が公開の運びとなる。映画市場にも一筋の光が見えてきたと言えようか。映画館へのカンフル剤は、強力な新作だ。再度の緊急事態宣言が発せられないことを祈るが、とにかく、映画の流れを止めないことが肝要だと思う。今の段階で宣伝などは思うようにできないだろうが、映画館に新作が戻りつつあるのは大きな励ましになる。一歩一歩から始める。多くの業種でも、そうあってほしい。

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