元吉本社員・竹中功さんが明かす「芸人と酒」エピソード

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竹中功さん(元吉本社員・作家・ラジオパーソナリティー/61歳)

 吉本興業入社後、吉本総合芸能学院(NSC)の設立やナイナイ岡村主演の香港映画「無問題」などの製作を手がけた竹中功さん。広報担当として、多くの芸人の不祥事会見を経験、それを生かした謝罪本や新刊「吉本興業史」が話題だ。現在ラジオのパーソナリティーも務めるなど幅広く活躍中だが、横山やすしら芸人から当時の吉本の会長まで、酒にまつわるエピソードが楽しい。

■林家小染は飲んで高座の途中で本当に眠った

 吉本時代は他の社員に飲む人が少なくて、僕もあまり飲まなかったですね。入社した40年前は会社から「タレントと一緒に遊ぶな」と言われてましたし。「酒席でしゃべって芸人にネタができるならいいけど、一緒に酔っぱらってる場合じゃないぞ」と。飲みに行っても芸人をお守りしてちゃんと見とけという感じ。

 お酒で失敗する芸人ていうたら、僕が入社した頃は4代目林家小染ですね。酔っぱらってて、交通事故で亡くなりましたけどね。落語では酔っぱらいが出てくるネタが得意だったけど、それは単に自分が酔っぱらってるからなんですよ。

 酒飲んで舞台に上がる時があって、舞台に上がる時にフラフラで「きょう飲み過ぎてるな、大丈夫かな」と思って袖で見てたら、落語の途中で寝てしまった。眠るネタか? と思っているとお客さんが「寝てる! 寝てる!」と騒ぎ出して、ホンマに眠ってる。

 太ってて重かったから3人がかりで舞台から引きずり降ろし、何事もなく次の出番の芸人を出しました。酔って舞台出るって、今なら大問題ですね。

■横山やすしは「便所行くわ」と帰ってこなかった

 横山やすしさんはよく隠れて飲んでました。漫才する時は、西川きよしさんが厳しい人で怒られるので、飲むのは一人でバラエティーに出る時です。長時間の収録だと退屈しはるんで、魔法瓶みたいなものに水割りを隠し入れてて、ずっと飲んでました。付き人かマネジャーに用意させてたようです。私は知ってても怖くて注意はできない(笑い)。つつがなく収録が終わればそれでいいやん、って感じで見てました。「久米宏のTVスクランブル」(82~85年・日本テレビ)の時も飲んでる日がありました。生放送ですよ。時には「ちょっと便所行くわ」とスタジオを出て、そのまま帰ってこなかったり。その時はヤクザの誕生日に行かなアカンらしかったですけど(笑い)。

「TVスクランブル」放送の翌日、吉本に抗議の電話がかかってきて広報として受けてました。「あんな酔っぱらい、テレビに出すな!」とか。

 当時、僕は「イヤならチャンネル替えてください!」と好きなこと言うてましたよ。まだ緩くて必ず謝罪する時代ではなかった。テレビ局もやすしが酔って数字とれればいいというのもありました。小染さんや、やすしさんがムチャしてたのは昭和の最後の頃ですね。

桂文珍は林社長ネタを本人がいる酒席でやった

 酒の失敗じゃないですけど、昔、桂文珍さんは当時の林正之助会長をネタにした落語を作ったんです。道頓堀川に油が浮いてるのをビルの上から見た会長が、「油田がある!」と、社員全員、道頓堀川を潜って掘らせるんです。油田は見つからないのに、「どっかにある!」と、どんどん先を掘らせ、オチは川の上流で天ぷら屋のおっさんがコッソリ油を捨ててたと。

 金儲けに目がない会長を皮肉ったネタで客に大ウケしたんです。それを知った会長が文珍さんを酒の席に呼び出して「ここで演れ!」と言ったんですよ。僕ら社員は店には呼ばれなかったけど、「文珍、クビになるんちゃうか」と思いました。でも、文珍さんが酒席で演じたら、会長に大ウケして、ものすごい喜んでくれたと。昔は芸人と社員は、節度を保ったまま酒席でワイワイガヤガヤとやっていたんですね。今はコンプライアンスで、白黒はっきりつけて、「飲んだらアカン」となっちゃってる。

 吉本の歴史を書いた本を6月に出しました。108年企業ですから、メディアが少ない時代に吉本が最初に始めたエンターテインメントはたくさんあります。本を読んでくれた人と飲み屋で会うと吉本の歴史に感心してくれてますね。あと質問もされます。暴力団とのこととか(笑い)。

 最近は大阪の地元で飲んでます。ダウンタウンが売れだした「4時ですよ~だ」(毎日放送)で一緒に仕事してた構成作家の白尾くんが今、50代半ばで、天神橋3丁目で「べろべろばあ」って鉄板焼きの飲み屋のマスターをやっていまして、よく行きます。この前、僕が酔っぱらって勝手に厨房に入り、牛スジを入れるお好み作って、ついでに冷蔵庫を開けてそこからトマトとピーマンとチーズを取り出してのせ焼いてみると、下半分がお好み焼きで上半分がピザになりました。知らないお客さんに「おごりです!」と振る舞ったら喜ばれてマスターが「竹中さん、店のメニューにしときましょか!」と(笑い)。

 還暦過ぎたのに相変わらずそんなふうに飲んでます。今はまた自粛ですが、その店で酔ったら残り物で僕が創作お好み作りますんで、大阪の人は自粛あけて気が向いたら寄ってください。

 (聞き手=松野大介)

▽たけなか・いさお 1959年2月、大阪市出身。81年に吉本興業入社。吉本総合芸能学院(NSC)の設立や映画製作など手がける。15年退社。著書やラジオなどでも活躍。新刊「吉本興業史」(角川新書)発売中。著書に「よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術」(日経BP社)など多数。「べろべろばあ」のある天神橋筋商店街を勝手に盛り上げるYouTubeチャンネルを立ち上げる予定! ㈱ワタナベエンターテインメント顧問。

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