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原田曜平マーケティングアナリスト・信州大学特任教授

1977年、東京都生まれ。マーケティングアナリスト。慶大商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、独立。2003年度JAAA広告賞・新人部門賞受賞。「マイルドヤンキー」「さとり世代」「女子力男子」など若者消費を象徴するキーワードを広めた若者研究の第一人者。「若者わからん!」「Z世代」など著書多数。20年12月から信州大特任教授。

トレエン斎藤司が語る芸人とSNSの今後「海外に向けて自分から発信してもいいんじゃないか」

公開日: 更新日:

第11回 トレンディエンジェル 斎藤司

 ようやく出口が見え始めたコロナ禍。だがこの2年間で劇場は閉鎖になり、営業やテレビの仕事も減少。芸人を取り巻く環境が激変するなか、「M-1」で優勝経験もあるお笑い界のトップランナーの“斎藤さん”であっても悩みは尽きないという。

  ◇  ◇  ◇

原田「斎藤さんとは5年前ほどに『Abema Prime』(AbemaTV)で共演したのがきっかけで、コロナ前は何度かお食事に行ったこともある仲です。安田大サーカスクロちゃんやブラックマヨネーズの小杉竜一さんたちと『ハゲ会』を開催しようと言っていたのですが、コロナもあって一堂に会さないままになっていますね。この間、仕事やプライベートに変化はありました?」

■憧れは“二の線”

斎藤「しばらくSNSをやっていなかったのですが再開しました。インスタグラムとTikTokを中心にやっています。明らかに反応も増えて、みんな見ているんだなと実感しています」

原田「今後はSNSにもっと力を入れていく予定ですか?」

斎藤「悩みどころなんですよね。例えば、芸人はインスタグラムにカッコつけて撮った写真はほぼ載せないんですよ。でも、僕はもともとジャニーズ事務所に入りたかったし、“二の線”に憧れていたので、カッコつけた自撮り写真を載せていました。ところが、心のどこかで『そんな写真を載せているのはむしろカッコ悪いんじゃないか』と芸人目線の考え方もちらついて、だんだんとやらなくなりました。だから、カッコつけたいのか、芸人としてイタイと思われたくないのか、やっていることが中途半端なんですよ。突き抜けなきゃいけないとは思っているのですが……」

原田「昔はテレビも力がありましたけど、今はスポンサーの力が強くなって、リスクを嫌う傾向がある。だから、大学も出ているし、サラリーマン経験もある斎藤さんのようなバランス感覚を持つ芸人さんのほうが好まれる気がするんですけどね」

斎藤「僕たちのような人前に出る仕事って、結局は人が持っていない強烈な個性がある人に需要がある。突き抜けているからこそ、炎上しても関係ないという強さを持っている人たちを見ていると、すごく羨ましいです。でも、僕は人に嫌われたくないという感覚が強い。だからこそ中途半端だなとも思うんですよね。ただ、そういう世界に身を置いているとワクワクしますよね」

原田「でも、一生、次の戦略を考え続けるのはしんどくないですか?」

斎藤「確かにしんどい面もありますが、この仕事は給料明細を見るのが、良くも悪くも楽しみなんですよね。サラリーマン時代は、期待したって基本的には給料は変わらない。芸人だと『えっ、これだけ?』というときと、『なんじゃこりゃ!』というときと両方あるんですよ」

■「最高月収は1000万円超、全部テスラ株に突っ込めばよかった」

原田「ピーク時の金額は?」

斎藤「最高月収は1カ月で1000万円超え。そのときはCMのギャラが入ったので高額でした」

原田「やっぱり夢がありますね」

斎藤「いきますよね~。当時の金を全部テスラの株に突っ込めばよかったって思っています(笑い)」

原田「芸人さんって、もしかしたら明日仕事がないかもしれないからなのか、投資や金融商品に突っ込む人が結構多いですよね。仮想通貨などもみんなやっていますしね」

斎藤「みんなやっているのですが、勉強しないで始めるので社会の縮図と一緒で、ほとんどの人が負け組(笑い)。芸人が集まる楽屋では投資話などで盛り上がるので、一通り手を出しちゃうんですよね」

斎藤「サラリーマンは本当に嫌でした」

 夢を掴めるのが芸能界。もちろん売れっ子は一握りで、吉本興業だけでも6000人ともいわれる芸人が日々、シノギを削っている。「M-1」チャンピオンといえども次の戦略がなければ明日なき厳しい世界だ。

原田「斎藤さんはサラリーマンを2年弱経験してから芸人になっていますよね」

斎藤「普通に大学に進学して就職活動しました。でも、見通しが甘すぎて就活も大学4年の4月から始めたくらい。洋服が好きだからルイ・ヴィトンやグッチも受けましたがダメ。そういえば電通や博報堂って有名だよなと思い立って受けたけどもちろんダメ。バイトの面接感覚で受かるわけがないんです」

原田「サラリーマンは向いてなかった?」

斎藤「本当に嫌でしたね。僕は静岡で求人広告の営業マンをしていたのですが、度胸がないので飛び込み営業ができなかったんです」

原田「営業が得意だから芸人になってその経験を生かそうという発想ではなかったんですね」

斎藤「ぜんぜん逆です。仕事を始めて4カ月くらいでスロットにドハマりしてました(笑い)。特に一対一で話すのが苦手なので」

原田「斎藤さんがNSCに入学したのは2004年。当時25歳だと周りとの年齢差もありますよね」

斎藤「(相方の)たかしも高卒の18歳でNSCに入学しているので7歳下。僕は社会人経験を経た25歳だったので、『こいつらだったら勝てる』と(笑い)。みんな学生気分が抜けていないし、ネタも面白くない。NSCに入って何人かとコンビを組んだのですが、しっくりこなくて卒業2カ月前に組んだのがたかしでした。たかしは僕と違って人懐っこくてコミュニケーション能力が高い。初対面の人や僕が話しづらい先輩とも女の子とも話すのがとにかくうまい。その能力を借りようと」

原田「NSCの10期生はオリラジ、はんにゃ、フルーツポンチなど、早くから売れた同期が多いですね」

斎藤「芸人になったら最低10年は下積みをやらないと売れないと思っていたので意外に早くチャンスが来るんだと驚きました。特にオリラジはNSC生の頃から爆発的な人気がありましたし、はんにゃやフルポンも4~5年目でブレーク。もちろん羨ましい気持ちもありましたが、頑張れば上に行けるという希望にはなっていましたね。僕たちも2~3年目から少しずつテレビに出られていました。テレビに出ると吉本から営業の声がかかる。2~3年目で月10万円くらいはもらえていたので意外と食えるなと」

原田「日本に居ながらグローバルに発信できる時代」

原田「M-1チャンピオンになったのは2015年。生活は一変しました?」

斎藤「2~3年はチャンピオンの恩恵を受けましたが、その期間が長かったせいでブレーク後の戦略を練る暇がありませんでした。毎日現場だったので、自分の思うような展開にならないことも当然増えてきた。仕事を選ぶべきだったという反省はあります」

原田「では今後の戦略は?」

斎藤「今までは吉本がオファーを受けて、そのオファーに応じてタレントを出すのがビジネスの流れでしたが、今はタレントがSNSで発信できる時代です。それを見たテレビ局などが直接オファーをする流れがある」

■SNSでセルフプロデュース

原田「芸人さんもセルフプロデュースが大事な時代」

斎藤「もちろんバズらせなきゃいけないけど、自分で発信しようと思えば今すぐにでもできる。SNSに力を入れている芸人が増えている分、埋もれることもありますが、こんなにおいしいアピールの場があるのは大変ですけどありがたい」

原田「斎藤さんはTikTokで踊ってますもんね」

斎藤「見ている人から『この選曲、センスいいね』と反応されたときは気持ちいい。あと、TikTokのフォロワー数が約4000万人いるじゅんやさんというTikTokerがいるのですが、日本人で彼を知っている人はそこまで多くないですよね。彼のフォロワーはほとんど外国の人。それを見たときに、自分は何を縮こまっているんだろうって思ったんです。日本をおざなりにするわけではないけど、海外に向けてやってもいいじゃないかと」

原田「COWCOWもTikTokではインドネシアのフォロワーなどが多いですよね。日本に居ながらグローバルに発信できる時代になっているのは確かです」

斎藤「理想はどこに住んでいても変わらないワークスタイルですね」

原田「『芸人は劇場の板の上に立って客の前に出てなんぼ』という昔ながらの芸人気質はないですか?」

斎藤「いや、漫才もめちゃくちゃ楽しいんですよ。お笑いはたかしと一緒にできることだし、いちばんドキドキするし、基本的には好きなのですが、ほかにもワーキャー言われたい(笑い)。どちらかというとブラッド・ピットみたいになりたいのでSNSはもっと力を入れようと思っています」 =おわり

(構成=高田晶子)

▽斎藤司(さいとう・つかさ)1979年、横浜市出身。日大商学部を卒業後、一般企業に勤務。その後、25歳で芸人を目指して吉本総合芸能学院(NSC)東京校に10期生として入学。04年に同期生のたかしと「トレンディエンジェル」を結成。15年のM-1グランプリで優勝。

▽原田曜平(はらだ・ようへい)1977年、東京都出身。マーケティングアナリスト。慶大商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、独立。近著に「Z世代」。2020年12月から信州大特任教授。

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