荒川洋治(現代詩作家)「七階」「水滴」など著書の名品と並ぶ秀作
6月×日 イタリアの作家ブッツァーティの未邦訳の新刊「アズィズ・マイオ事件」(東宣出版 2420円)を読む。長野徹訳。表題作は、臣下が理由不明のまま、消えていくことへの恐怖を段階的に描くもので「七階」「水滴」など著者の名品と並ぶ秀作。自分は特別だと思う人には見えない心の領域を照らす。
6月×日 リスト「思想系文学者一覧」を作成し、いつもの新宿の講座で配布。主に労働運動に関わった人または支持者を郷里などの都道府県別で128人。北海道・有島武郎(農場解放)、秋田・小林多喜二、神奈川・岩藤雪夫(父は活動弁士)、福井・広野広(新島に移住)、大阪・林熊王(のちの漫才作家・秋田実)も。右面に日本列島の白地図。そこに受講者が作家名を書き入れるように勧めた。自分で書くと、肌身で感じるものになる。ぼくも、そうしよう。
6月×日 「VOSTOK」6号掲載予定のアンソロジー14編が完成、送稿。モルナール「リリオム」、高見順「如何なる星の下に」、宮本百合子「杉垣」などの一節を掲げ、短文を添える。リストを作ったり、調べものをしたりすると見晴らしがよくなる。自分の読書の姿形を確認できる。
6月×日 谷口善太郎の「綿」(1931年)を「谷口善太郎小説集」(能登印刷出版部 1500円)で再読。子どものとき、家の畑で見た白い綿。そのあとおとなになって見たロシア映画に、中央アジア・トルキスタンの綿の木が、突然映し出されたのだ。「お、綿!」「あ、綿!」──。プロレタリア文学屈指の名場面だ。
新刊「プラトーノフ・コレクションⅡ」(工藤順ほか編訳 作品社 6930円)を開く。ロシア20世紀最大の作家とされるプラトーノフは、谷口と同じ1899年生まれ。長編「ジャン」は、現・トルクメニスタンの砂漠地帯をさまよう少数民族の情景だ。ちょうど「綿」の主人公が映画で見た地域である。遠く離れたアジアの両端が、静かにつながる。これも読書の風景だ。



















