診療しながら生い立ちやトラウマに向き合う「プリズン・ドクター 英国の刑務所で働く女性医師の診察録」アマンダ・ブラウン著 倉骨彰訳
「プリズン・ドクター 英国の刑務所で働く女性医師の診察録」アマンダ・ブラウン著 倉骨彰訳
英国の刑務所のプリズン・ドクター(刑務医官)として長年受刑者たちを診察してきた女性医師が、仕事と人生を回顧したノンフィクション。
アマンダ・ブラウンは、患者に親身なクリニックの経営者として成功し、理解のある夫と2人の息子に囲まれてセレブな生活を送っていた。ところが、英国の医療制度改革に乗じて収益重視に転じようとする経営幹部と対立、クリニックを飛び出してしまう。
喪失感を抱いていたアマンダに、ある日、刑務所からの誘いが舞い込んだ。心機一転、過酷な現場でキャリアをやり直す決心をしたアマンダの最初の転職先はハンターコム少年刑務所だった。その後、凶悪犯を収容するスクラブス男性刑務所、ヨーロッパ最大の女性刑務所、ブロンズフィールド刑務所に勤務。受刑者たちと向き合ってきた。
詐病、自傷行為、自殺未遂、麻薬中毒、凄惨なリンチ、独居房での出産……。衝撃的な出来事が日常的に起きた。アマンダは受刑者たちの心身の不調を診療しながら、症状の背後にある心の傷や苦悩に目を向ける。彼らの生い立ちや成育環境を知り、トラウマや貧困が犯罪に走らせる原因になっていることを知った。刑務所は社会から見捨てられた人たちの吹きだまりだった。
手首に自傷の痕、背中には無数の焼け焦げの痕がある少年。母親に見捨てられて心に深い傷を負った青年。義父の性的虐待に耐え続け、薬物依存になった女性。彼ら、彼女らの告白を聞きながら、アマンダはときに一緒に涙を流し、抱きしめる。ごくまれにだが、アマンダがかけた言葉が薬のように効いて、彼らの傷ついた心を癒やしたと感じることもあった。これから先の彼らの人生が少しでも良いものになるように手を差し伸べたい。アマンダは自分の生きる意味を見いだした。
アマンダが語る塀の中のエピソードの一つ一つが人間ドラマになっている。そのドラマを通して、豊かで自由に見える社会が抱えるさまざまな問題が照らし出される。英国「サンデー・タイムズ」紙で11週連続ベストセラー。
(草思社 3960円)



















