【デッドマンズ・ワイヤー】49年前の実話事件、米国の世論はなぜ二分したのか?

公開日: 更新日:

業突く張り社長を演じアル・パチーノの存在感はお見事

 本作を見て2つの事件を思い出した。1つはあさま山荘事件(72年)。連合赤軍の立てこもりの様子が連日報じられ、最後の機動隊突入では日本中がテレビにかじりついた。まさに劇場型犯罪。本作のトニーも人質にショットガンを突きつけてテレビカメラに語るなど劇場型だ。「本当にこんなイカレた会見をしたのか?」と眉につばして見ていたら、エンドロールで実際の映像が流れた。いやはや、世の中には知らない事件があるものだとおのれの不勉強を反省した次第である。

 もう1つは金嬉老事件(68年)。在日朝鮮人二世の金が金銭トラブルの果てに暴力団2人を射殺、静岡県の旅館に立てこもった事件だ。金は籠城中に記者を呼んで暴力団の非を訴えた。このとき人質の一部が金に同情。一種のストックホルム症候群が起きたことでも知られる。

 本作を見ていると、立てこもり犯のトニーが金のように気の毒になってくる。メリディアン社という大資本に振り回され、資産を巻き上げられたのが事実なら、彼は資本主義の犠牲者だ。実際、アルパチーノ演じるホール社長は人質にされた息子より、自社の利益を重要視しているふしがある。現代の新自由主義の「今だけ、カネだけ、自分だけ」という掛け声がタイムスリップしたかとも思えるのだ。それにしてもこの業突く張り社長を演じアル・パチーノの存在感はお見事。資料によると、4場面を1日で撮影したという。

 ガス・ヴァン・サント監督はこう語っている。

「本作が過度な苦痛を与えることのないよう願っていますが、我々が生きている時代そのものが深く不安定である以上、ある程度の居心地の悪さは避けられないのかもしれません」

 さて、事件はどのような決着を迎えたのか。映画は一段、二段の意外な展開になだれ込み、筆者は「へえ~ッ」と唸ってしまった。やはり事実は面白い。面白くてズシンとくる。まさに事実は小説よりもなんとやら。世論が二分された背景を劇場で味わっていただきたい。(配給=KADOKAWA)

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    活動終了「嵐」メンバー「消える人」と「生き残る人」…“一番先行きが厳しい”のは?

  2. 2

    Netflixで話題「古畑任三郎」 伝説の神回《動機の鑑定》に描かれる古美術界のリアリティーに迫る

  3. 3

    松尾雄治さん(1)ゴルフ場で意識を失う…「気が付いたら病院のベッドでした」

  4. 4

    メジャー屈指の不人気球団が佐々木麟太郎を指名…“銭ゲバ”マーリンズの黒歴史

  5. 5

    ビートルズよりもストーンズよりもすごいバンド、ラトルズ!

  1. 6

    女性を巡る愛憎より友情が勝った永遠のバディー

  2. 7

    “スジ悪”すぎる副首都法案のボロが露呈…国会審議で維新の「大阪ありき」に集中砲火

  3. 8

    48年ぶり映画出演の由美かおるさんが語る 人生が変わった瞬間「11PM」「水戸黄門」エピソード

  4. 9

    はつらつプレーで4人に音楽の喜びを取り戻させた陰のMVP

  5. 10

    木原稔官房長官「国会会期延長必要ない」が波紋呼び修正…失言連発で“調整役”として機能せず