“噂”が内包している危うさが骨身に染みる「ファイア・ドーム」辻村深月著
「ファイア・ドーム」辻村深月著
炎上が実際の火災だけでなく、「ネット上が大荒れすること」という言葉でも使われ始めて久しい。トピックスに対して何か意見することがひとつの娯楽になってしまっている。また「人の噂も七十五日」というが、ネットで一度火がついてしまうとデジタルタトゥーとして何回も掘り起こされてしまうのも現代の特徴である。なぜ人は事件に惹かれ噂が広まるのか、そこに焦点を当てたのが本著である。
物語は1994年の夏に起きたある事件から始まる。北陸地方、L県の百貨店で働く女性、新沼紗英が何者かに誘拐される。警察の捜査もむなしく、彼女は遺体で発見されてしまう。その後、犯人は逮捕されるが、事件が起きた街では、被害者家族にまつわる突拍子もない「噂」が出回るようになり遺族たちは困惑し大いに傷ついた。そこから25年の月日が経った2019年。同じ街で男子児童が失踪する。行方不明になる直前に話した担任の教師はネット上で批判を浴び、児童が25年前の事件の血縁者でもあったことでまた新たな「噂」が発生する。児童はどこにいるのか、そして噂に翻弄された人々が行き着く先とは。
長年著者の小説を追いかけてるので、今作もミステリー作品として卓越しているなと思ったと同時に、今、やるべきテーマと正面でぶつかっている気迫を読んでいて感じた。昨今、事件のニュースを見たとき、家族や知り合いの間で「あの事件、どう思う」と話すだけではなくSNSやニュースのコメントをチェックし、無責任な推測を信じ、また更にその推測を拡散する人、真偽不明な状態で誰かを攻撃する人が非常に増えてきた(特に子どもが巻き込まれたものは顕著に思える)。この「噂」が内包している危うさが本著を読むと骨身に染みてくる。
またこの作品は群像劇でさまざまな人物の視点で進行していくのだが、現代で誘拐される児童のクラスメートの章ではその純粋さに心を打たれた。著者の過去作品「かがみの孤城」や「ぼくのメジャースプーン」などでも現れているがリアルな児童の心情を書くのが非常にうまいなと改めて感じた。
上下巻合わせて850ページ超えの大長編だが「熱」が最初から最後まで冷めることなく伝わってくる一作だ。 (小学館 上・下各2090円)



















