著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

“噂”が内包している危うさが骨身に染みる「ファイア・ドーム」辻村深月著

公開日: 更新日:

「ファイア・ドーム」辻村深月著

 炎上が実際の火災だけでなく、「ネット上が大荒れすること」という言葉でも使われ始めて久しい。トピックスに対して何か意見することがひとつの娯楽になってしまっている。また「人の噂も七十五日」というが、ネットで一度火がついてしまうとデジタルタトゥーとして何回も掘り起こされてしまうのも現代の特徴である。なぜ人は事件に惹かれ噂が広まるのか、そこに焦点を当てたのが本著である。

 物語は1994年の夏に起きたある事件から始まる。北陸地方、L県の百貨店で働く女性、新沼紗英が何者かに誘拐される。警察の捜査もむなしく、彼女は遺体で発見されてしまう。その後、犯人は逮捕されるが、事件が起きた街では、被害者家族にまつわる突拍子もない「噂」が出回るようになり遺族たちは困惑し大いに傷ついた。そこから25年の月日が経った2019年。同じ街で男子児童が失踪する。行方不明になる直前に話した担任の教師はネット上で批判を浴び、児童が25年前の事件の血縁者でもあったことでまた新たな「噂」が発生する。児童はどこにいるのか、そして噂に翻弄された人々が行き着く先とは。

 長年著者の小説を追いかけてるので、今作もミステリー作品として卓越しているなと思ったと同時に、今、やるべきテーマと正面でぶつかっている気迫を読んでいて感じた。昨今、事件のニュースを見たとき、家族や知り合いの間で「あの事件、どう思う」と話すだけではなくSNSやニュースのコメントをチェックし、無責任な推測を信じ、また更にその推測を拡散する人、真偽不明な状態で誰かを攻撃する人が非常に増えてきた(特に子どもが巻き込まれたものは顕著に思える)。この「噂」が内包している危うさが本著を読むと骨身に染みてくる。

 またこの作品は群像劇でさまざまな人物の視点で進行していくのだが、現代で誘拐される児童のクラスメートの章ではその純粋さに心を打たれた。著者の過去作品「かがみの孤城」や「ぼくのメジャースプーン」などでも現れているがリアルな児童の心情を書くのが非常にうまいなと改めて感じた。

 上下巻合わせて850ページ超えの大長編だが「熱」が最初から最後まで冷めることなく伝わってくる一作だ。 (小学館 上・下各2090円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(2)2018年に次男が急逝「息子だけど、音楽の、とても良い仲間でもあった」

  2. 2

    中丸雄一「アパ密会」から2年で“冠番組”…禊は済んでも「元のポジション」には戻れないワケ

  3. 3

    伝説の『アメリカ横断ウルトラクイズ』来年復活へ 番組を取り巻く環境の激変で日テレに突きつけられた課題

  4. 4

    甲子園史上最速156キロ横浜・織田翔希にNPBスカウト早くも白旗 「直メジャー」なら契約金5億円も

  5. 5

    不倫問題の西武・源田壮亮に同情が集まる意外なワケ…妻・衛藤美彩の“幸せアピール”に疲れ果てた?

  1. 6

    皇族費増額の彬子女王、ブータン訪問にまた波紋…同行・伊藤穰一氏とエプスタインの“過去”

  2. 7

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  3. 8

    「VIVANT」は観光客を呼べる! ロケ地巡りビジネスが大繁盛

  4. 9

    佐藤輝明の「メジャー移籍強行突破」に現実味…“阪神残留説”も「折れるつもりはない」の声

  5. 10

    京都・向日市、府内初の130メートル級、ゆがんだ建設計画に立ち向かう辣腕弁護士