成田国際空港と人々の暮らしの境界域を撮る「Threshold 閾」若山忠毅著
「Threshold 閾」若山忠毅著
ページを開くと、ほとんどの作品に旅客機が写り込んでいる。だからといって旅客機や空港をテーマにした写真集ではない。
中には、工事フェンスの向こう側に巨大な機体が鎮座するインパクトがある写真などもあるが、旅客機が写っていなければ、ロードサイドのコンビニや神社、団地など、日本のどこにでもある風景にも見える。
本書は、今なお拡張工事が進められている成田国際空港周辺の風景を撮影した写真集である。
ある年代以上の人にとって成田国際空港(新東京国際空港)は、激しい反対運動「三里塚闘争」と切っても切れない。
千葉県成田市三里塚に新たな空港の建設が閣議決定されたのは1966年。
計画では3本の滑走路を持つ空港として1973年度に開港予定だったが、激しい反対運動で、1978年にA滑走路だけで開港。
その後も工事が続いたがB滑走路の建設も難航し、最終的には反対派住民の土地を避けるように敷設され、2002年暫定平行滑走路として併用開始に至った。
そして現在、B滑走路の延伸と第3滑走路の建設が進む。
本書に収められた写真は、その成田国際空港と人々の暮らしの境界域の風景なのだ。
2013年、著者は空港の近くに立ち寄った際に、開港から半世紀近くを経ても未完成のままの成田国際空港がどうなっているか、純粋な好奇心から成田市東峰、天神峰地区を訪問。
空港建設以前から暮らし、建設に反対し続けてきた住民の土地も点々とその存在を探し当てることはできるが、目の前に広がるのは空港問題と異なる文脈で生じた、日本のあらゆる地域に遍在する均質化された空間だった。
その「没場所性」的な風景の偏在によって、「空港問題がありながらもその周辺は存在価値を弱めてしまい、かつての対立や記憶が均質な風景のなかに埋没していくように思われた」著者は、以来、同地域に通い、何年もかけて空港の周囲を一周めぐるようにその風景をカメラに収めてきた。
2021年の年末、成田市十余三で撮影されたB滑走路延伸区域は、すでに工事が始まり、地面に真四角に掘られた穴が整然と並ぶ。
その3年半前に撮られた次のページの写真で、そのあたりが一面の畑だったことが分かる。植え付けに備え整然と並ぶ畝が住人たちの暮らしぶりを伝える。
かと思えば、そうした農地が工事用フェンスによって分断された風景や、反対派住民の土地(空港未買収地)の上をかすめるように飛ぶ旅客機の写真もある。
一方で、水田のかたわらでは牛たちがのんびりと草をはむ、かつての付近の風景を彷彿とさせる風景がある。ただし、そこは第3滑走路の建設予定地になっており、撮影は6年前なので、もうすでにないか、いずれは消えてしまう風景である。
時とともに変容せざるを得ない空港との「閾」の風景を提示することで著者は我々に思考を促す。
(赤々舎 5500円)



















