相澤冬樹
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相澤冬樹ジャーナリスト・元NHK記者

1962年宮崎県生まれ。東京大学法学部卒業。1987年NHKに記者職で入局。東京社会部、大阪府警キャップ・ニュースデスクなどを歴任。著書『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)がベストセラーとなった。

不都合隠しに巨額税金もいとわない卑劣…雅子さんが描いた国の代理人の顔

公開日: 更新日:

「ふざけんな! と思いました。惨敗したような、大負けに負けたような気持ちです」

■国が「認諾」で裁判強制終了

 激しい思いが言葉になった。財務省公文書改ざん事件の原告、赤木雅子さん。改ざん事件で命を絶った夫、俊夫さんの死の真相を解明するため、国と佐川宣寿元財務省理財局長を相手に裁判を起こした。15日、大阪地裁で行われた非公開の協議で、国はいきなり「認諾」を申し出た。原告の請求金額を丸ごと認めて賠償金を支払い、裁判を終わらせる手続きだ。提訴から1年9カ月、国との裁判はあっけなく終わった。

 原告の訴え通りに賠償を払うのだから、普通ならば原告にとって勝訴同然で、めでたい話ということになる。それがなぜ「ふざけんな」という言葉になるのか?

 赤木雅子さんはこの裁判でお金がほしかったわけではない。賠償を求める形にしないと裁判にならないから請求はしたが、本当に望んでいるのは真相の解明だ。改ざんはなぜ行われたのか? 夫が反対しても無理やりさせた責任は誰にあるのか? 改ざんした文書は森友学園との土地取引に関するものだ。この取引自体に問題があるのではないか?

 それを、裁判で資料を請求し、関係者に法廷で証言を求めて、真実を知りたかった。ところが認諾されてしまうと賠償の支払いで裁判は終わってしまう。証人の証言も実現できない。真相を解明されたくないから無理やり裁判を終わらせたのか?

「あなた方の顔を忘れない」

 雅子さんは協議の席で国の代理人に語り掛けた。

「夫は国に殺されたと思っています。何度も何度も殺されて、きょうまた殺されました」

 その間、国の代理人8人はじっとうつむいていた。雅子さんは思わず言った。

「あなた方、私の顔を見てください。私もあなた方のきょうの顔を忘れません」

 赤木さんの言葉が終わると、国の代理人はそそくさと帰っていった。法廷を出たところで筆者は彼らに「国の代理人の方ですよね」と声をかけたが、誰一人何も言わず足早に立ち去った。

 雅子さんは彼らの一人の顔を法廷でスケッチしていた(写真)。うつむいて黙りこくったまま反応のない姿。雅子さんは法廷でこういう人たちと向き合ってきたのだ。

 さて、これですべてが終わってしまうのだろうか? そんなことはない。国との国賠訴訟は終わっても、まだ佐川元理財局長との裁判が残っている。改ざんを指示したとされる佐川さんとの裁判を通し、佐川さん本人や関係者の証言を求める道もある。

 闘いはまだ続く。臭いものにふたをしようとする相手の思い通りにはさせない。何としても真相にたどり着いてみせる。今回の裁判で国が支払う1億1000万円超の賠償金は、そのための軍資金となりうるだろう。

 それにしても、この賠償金の原資は税金だ。不都合なことを知られないためなら巨額の税金を使うこともいとわない。そんなことがあっていいはずがない。

 この国に暮らす心ある人々すべてに、この卑劣さと不条理を知ってもらい、「許せない」と声をあげてほしい。そう痛感した一日だった。

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