20年ぶり演説の村山富市元首相 「国民に主人公意識芽生えた」

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「村山談話」を骨抜きにするのか。安倍首相の戦後70年談話に注目が集まる中、91歳の元首相が積極的に動いている。先月24日には若者たちの国会前デモに登場。背筋をぴんと伸ばし、安倍政治を批判した。元首相を突き動かしているものは何なのか?

――国会前の街頭で演説されましたけど、20年ぶりだそうですね。

「戦後50年談話」を20年前に出してすぐ総理を辞めましたから、街頭演説はそれ以来です。国の形を変えてしまう安保法案は国民全体の問題ですから。若者も年寄りもありません。

――現場に立ってみて、いかがでしたか。

 1960年の安保闘争のことを思い出しながら、話をしましたけれど、あの時とは全然違います。安保闘争は労働組合や全学連などが主体となった。思想団体によって、組織されたデモでした。今のデモは自然発生的に湧き起こっている。安保法案の中身や国会の審議のひどい状況を見て、「これでいいのか」「日本はどうなるのか」という不安に駆られた若者たちが、居ても立ってもいられなくなって集まっている。そんな学生たちに刺激されて、主婦や年寄りも集まっている。安保闘争の時とは集団の雰囲気が全然違うと感じました。

――初めての純粋な民衆の怒りですね?

 日本人には「長いものには巻かれろ」という追随主義がある。だから、反対運動が一時的に盛り上がっても、いつのまにか冷めてしまう。だけど、今回は違いますね。みんな性根を据えてかかっている。だって、これだけ多数の憲法学者が違憲と言っているんですよ。内閣法制局長官は法の番人なんですよ。歴代の長官がやっぱり、これは違憲だと言っているんでしょ? 国会の審議を見ても、まともに答弁してないじゃないですか。自分の言いたいことをペラペラしゃべっているだけで、質問に答えないから、何を言っているのかさっぱりわからない。もうそりゃ、ひどいです、見ていると。こういう状況を見て、国民が立ち上がったと思うんですね。

――このままじゃすまない?

 来年は参議院選挙があるし、やがて解散・総選挙もある。国民の怒りは選挙までずっと続くと思いますよ。安保法制の問題は、日本人の意識を変えた。「我々が主人公だ」「我々が国の方向を決めるんだ」という意識が芽生えた。本当の意味で、日本に民主主義が根付く機会になると思います。

■「70年談話」で世界を納得させられるのか

――安倍首相は戦後70年談話でも、村山談話を変えようという意欲を見せている。これについてはどうですか?

 今の若い人たちは戦争を知らない。学校教育で近現代の歴史を教えていないからです。なぜ、教えないか。あの戦争はよかったのか、悪かったのか、国の方針が定まっていないから教えられなかったんです。これではいかんと、私の内閣の時に整理をした。それが「村山談話」です。あの時、自民党の半数は反対だった。だけど、談話を出すことが歴史的な役割だと思った。日本は歴史的にも、地政学的にも、アジアの一員です。韓国や中国とは3000年もの交流の歴史がある。まして今は、経済的にお互いの依存度も高い。隣同士が対立し合って、得なことは何もない。通じ合って、助け合って、お互いに発展していくのは当然です。しかし、ケジメをつけていないから、近隣諸国は「日本が再び過ちを繰り返すんじゃないか」という不安を持っている。そこで、「談話」で厳しい反省をしたのです。歴史的な事実を率直に認め、悪かった、もう過ちを繰り返さない、と日本の方向性を打ち出したのです。あの談話が出てから、韓国も中国もASEANの国も、そして米国も、これでよかったと、納得していたのですよ。

――ところが、安倍首相が、談話を見直すようなことを言い出した。

 第1次安倍内閣の時は「村山談話を継承する」と言っていたのに、第2次になったら、「村山談話のすべてを継承するわけではない」「侵略の定義は定まっていない」というような発言をして、「70年談話を出したい」と言うものだから、「何を考えているのか」と思われているのが今の状況です。安倍さんは、50年の村山談話でも60年の小泉談話でも言ったことは、3度も言う必要ないじゃないかと言い出している。で、後段部分で「積極的平和主義」を主張したいと思っているのでしょうが、それでは世界は納得しない。過去の歴史についてどう思っているのか、が問われているわけですからね。

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