信愛書店 en=gawa(西荻窪)推定7坪の売り場の“旬”の棚には「皆さんに読んでほしい本」
午前10時のアポ。開店時刻より2時間も早いのに、店の奥に人の気配あり。実は旧知の本屋さんなので、ずけずけと。本棚に、紙の雑貨が増えているなーと見ながら奥に進むと、以前はギャラリーとトークのスペースだったところに作業机が並び、本にピシッと透明ビニールカバーを貼っている女性がいた。
「図書館に納める本の装備の仕上げ。『フィルムコート』をしているんです」と、店主の原田直子さん(75)が、その女性の傍らで。「都合のよい時間帯に、適量の作業を」という仲間が10人以上。皆で事業運営をするワーカーズコープ(労働者協同組合)の場となっていたのだ。
「年々本屋が閉店していくので、図書館や学校、区役所への(本の)納品をウチがどんどん頼まれるようになって。なら、装備も受注し、ワーカーズコープの形でと……」
原田さんの夫の父が始めた信愛書店は、町の本屋歴90年。原田さん夫婦が主体になってからでも50年。西荻窪の店以外に、高円寺で文庫専門店やブックカフェを運営した時期もあったが、2014年、本売り場をぐっと縮小し、「en=gawa」を。22年からワーカーズコープも、と常に先を読み、行動してきた本屋さんだ。
町の本屋歴90年にして新しい本屋の形で注目
さて、推定7坪の本売り場は……。「今、ちょうど8月なので」と原田さんが指した棚に、水木しげる著「総員玉砕せよ!」、三上智恵著「証言 沖縄スパイ戦史」、酒井聡平著「硫黄島上陸」など戦争関連がずらり。その横の棚に面陳列されているのが、四國光著「反戦平和の詩画人四國五郎」、安田浩一著「地震と虐殺」。あっ、メイン棚には、三浦英之著「1945最後の秘密」が。「原田フィルターを通した問題提起」と声に出すと、「いえ。ただただ皆さんに読んでほしい本ですね」と、原田さん、にっこり。
片や、紙の雑貨が並ぶ棚では、海外アンティークの絵や写真のカード類が山のように。「仕入れ先は内緒(笑)。絵とかわいいシールとセットしたり。タロットの絵なら、謎解きの石や鍵をセットしたり。面白そうと、組み合わせを作り出して……」と原田さん。みるみる人気に。大阪の阪急百貨店から依頼され、この春は催事に出展したという。すごい!
新しい本屋さんの形、ここにあり、である。
◆杉並区西荻南2-24-15藤和シティホームズ西荻窪駅前1階/℡03・3333・4961/JR中央線・総武線西荻窪駅から徒歩2分/平日正午~午後6時、土日祝日午後2~6時、無休
ウチらしい本
「夜の木」シャーム、バーイー、ウルヴェーティ著 青木恵都訳
南インドのターラー・ブックスから2006年に出版された本の日本語訳。「中央インド出身のゴンド民族の昔話や神話を元に、ゴンド人アーティストが絵を描き、手すき紙にシルクスクリーンで印刷。手製本で仕上げられています。世界中で翻訳出版され、日本語版の初刷は2012年で、これは13刷。版ごとに色が変えられているので、新版が出るたびに買って、コレクションしている人もいます」
(タムラ堂 4400円)