「暦のしずく」沢木耕太郎著

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「暦のしずく」沢木耕太郎著

 時は江戸中期、宝暦7年。采女ケ原の見世物小屋で講釈を終えた馬場文耕はその帰り道、若い武士に「仇討ちだ」と詰め寄られる。聞けば文耕が書いた、旗本たちの噂話「世間御旗本容気」が元で兄が悶死したという。仕方なく文耕は素手で受けて立ち、見事武士を退ける。その様子を見ていた若い浪人・里美樹一郎に乞われ、文耕はこれまでの来し方--、阿波徳島の園木覚郎の下で修行をしたことを聞かせた。

 士分を捨て貧乏長屋住まい。そんな文耕を慕い、また頼りにする町人は少なくない。遊女を助けるために信を曲げ、こしらえた話をしたこともあった。客が喜ぶとわかり、仇討ちを語ったことも。これまで軍記ものばかりを講釈してきた文耕はやがて「語ることとは騙ること」と開眼する。

 日本の芸能史においてただ一人死刑に処せられた講釈師・馬場文耕の謎に包まれた生涯を大胆な想像力で描き出した、著者初の長編時代小説。

 利を食っている者への嫌悪、義に厚いその人柄は、年貢の取り立てが原因で起こった「金森騒動」へと文耕を導いていく。避けがたい歴史の流れに文耕だけでなく、読者もまたのみ込まれていくラストが圧巻だ。

(朝日新聞出版 2420円)

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