「ガンディーの真実 非暴力思想とは何か」間永次郎著/ちくま新書(選者:稲垣えみ子)

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「最も創造的な経験」を経て気づいた差別と暴力の本質

「ガンディーの真実 非暴力思想とは何か」間永次郎著/ちくま新書

 なぜ急にガンディーかといえば、インド旅帰りだから。他のどこにも似ていないフシギ大国インドのことがもっと知りたくなった。むろん本1冊くらいじゃ追いつかぬが、この名著により「非暴力」「白い布を着た質素な人」程度のことしか知らなかったガンディーのことが大好きになり、行き詰まった時代を生きる大きなヒントと希望を頂いた。読書とは縁である。読者の皆さまにもその縁をお裾分けする次第である。

 本書がユニークなのは、当時の世界最強国イギリスに立ち向かったガンディーの表舞台ではなく、舞台裏のガンディー、生活するガンディーに注目したことである。なぜならガンディーの非暴力の実践は、自分が日々「何を食べるのか」「何を着るのか」といった暮らしそのものでもあったからだ。

 その原点は、青年ガンディーが人生で初めて経験した差別体験にある。エリート家庭に生まれ、支配階級のイギリス人のようになりたいと願っていたガンディーは、弁護士として赴任した南アフリカでイギリス流スーツを着て1等車両に乗るが、肌の色の違いを理由に取り押さえられ列車の外に放り出される。虚飾を剥ぎとられ現実を突きつけられたガンディーは震えながら一夜を過ごし「人種差別という巨大な病」と闘うことを決意するのである。

 ガンディーは後年、この時のことを「人生における最も創造的な経験」と振り返っている。なぜならこの病とどう闘うかを考え抜いたガンディーは、世の中のどこにでもある差別と暴力の本質に気づいたからだ。「暴力とは、他者を自らの欲望を満たす手段にすることの全て」。ならば暴力と無縁の人間などいるだろうか? ガンディーは自らの生活の全てに徹底して目をむけた。暴力的でない食べ物、暴力的でない衣類、暴力的でない性──ガンディーはその究極の姿を求めて自ら生涯「実験」を続けていくのである。

 それは間違いなくストイックな行為ではあるが、読んでいて実に楽しくワクワクさせられるのは、今も世界中の人が陥っている、高価なものや珍しいものを求めて生涯あくせくし続ける地獄への道を抜け出す行為でもあるからだ。誰かを犠牲にしなくても人は本来、身の回りのもので幸福に美しく健康に生きることができるとガンディーは身をもって訴えた。そんなガンディーの姿が国民を力づけ、巨大な大衆運動へとつながっていくのである。

 どれほどの困難な状況にあろうとも、一人の力はかくも大きい。自分にできることはいつだってどこにだってあるはずである。 ★★★

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