プロボウラーの渡辺けあきさん心内膜炎から脳梗塞を発症した体験を語る
渡辺けあきさん(プロボウラー/32歳)=感染性心内膜炎→脳梗塞
「感染性心内膜炎」は、なんらかの原因で血液中に細菌が入り、心臓内にある弁で感染巣を作り、弁が破壊される病気です。私の場合は、重症化して感染巣でできた血栓と細菌の塊が脳の末梢血管で詰まり、「脳梗塞」を起こしてしまいました。それが2024年8月26日です。
異変は、その約2カ月前から始まっていました。頻繁に発熱するようになったのです。何軒か病院を受診しましたが原因はわからないまま。7月には高速道路を運転中に具合が悪くなってサービスエリアで突っ伏していたところ、見ず知らずの人が私に気づいて救急車を呼んでくれたこともありました。そのときも「熱中症でしょう」との診断で終わりでした。
ひとり暮らしで不安だったので、叔父の家に寝泊まりするようになった3日後、視野に異常を感じて、仕事中の叔父に「ちょっと心配」と連絡を入れた後、意識を失いました。帰宅した叔父が倒れている私を発見して、救急搬送となったのです。
叔父は元医療関係者で、救急車が到着するまでに病院に連絡を入れてくれていました。そのおかげでスムーズに運ばれ、早く処置ができました。脳梗塞は処置が早ければ早いほど後遺症が少なくて済む病気です。叔父の采配がなければ、ここまで回復できたかどうか……。
とはいえ状態は重症でした。感染性心内膜炎から脳梗塞を起こす症例はまれなようです。
2週間、ICU(集中治療室)にいました。問題は、脳出血があるため、その血管の傷が癒えるまで心臓の手術ができないことでした。ただ、その頃の記憶はあまりありません。
寝たきりで「ICUせん妄」(ICU患者特有の意識レベルの変動や幻覚など)を発症し、壁紙の模様がゴキブリに見えたり、ICUなのに毎日たくさんお見舞いの人が来たり、不思議な体験をしていました。
その後、抗生剤の点滴により細菌の塊が小さくなり脳梗塞の症状が緩和されたことと、食事を口から取ったことで体重が増え、心臓手術に必要な体力がつきました。
看護師さんから「食べることが人間の回復力だから、意地でも食べて」と強く言われ、とにかく必死で毎食完食しました。おかげさまで9月12日、8時間の手術を無事に終えられました。
手術は僧帽弁2カ所の弁形成術です。本来は胸の中央を縦にバッサリ切開する手術のようですが、私の場合、傷が目立たないようにと、両太ももの付け根と片胸の脇から乳房の下線に沿って切った痕が残っています。そのほか肋骨も切ったと聞いています。輸血量はなんと9リットル。たくさんの人の血液をいただき、順調な経過をたどりました。10月にはリハビリ病院に転院し、11月初旬に退院。その後は通院です。