「世界は基準値でできている」永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生著
「世界は基準値でできている」永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生著
猛暑が続く中、気象庁は今年の7月の日本の月平均気温は、基準値からプラス2.89度となり、過去最高を記録したと報じた。猛暑・水不足でコメ不足が懸念されるが、4月には基準値超えのカドミウムを含むコメが流通したとの報道も。このように我々の周囲にはさまざまな「基準値」が存在している。その基準値はどのように決まったのかについては案外知られていない。“基準値オタク”を自称する著者たちが、基準値の根拠から導出過程まで深掘りした「基準値のからくり」(2014年)を上梓し、話題となった。本書はその続編。
この10年の間には新型コロナウイルスによる新たな基準値が生まれ、性別をはじめとするさまざまなボーダーレス化が進み、基準値の考え方も変化している。第1章「男と女の基準値」は、男と女の境界に迫っている。2021年の東京オリンピックでは、トランスジェンダー女性が重量挙げ競技に女子選手として出場し物議をかもした。IOCは「女子選手の条件」として、性自認が女性であること、テストステロン(男性ホルモン)の濃度が10ナノモル以下であることとした。くだんの重量挙げ選手はこの基準をクリアしたので出場できたのだ。オリンピックでは、性染色体検査などいくつかの性別確認の試みを経た上でテストステロンルールに行き着いたのだが、その後このルールを巡って異論が続出、24年のパリオリンピックではテストステロンルールの統一基準がなくなった。
新型コロナ関係では、ソーシャルディスタンスの距離、濃厚接触の時間などがどのように決められていったのか、飛沫感染と空気感染の線引きなどが取り上げられている。そのほか、放射線被ばく量の基準値、原子力発電所の安全基準値、近年話題になっているPFAS(有機フッ素化合物)やコオロギ食、AIと個人情報など興味深い話題が満載。未知の世界が大きく開けていく。 〈狸〉
(講談社 1320円)