宮田律
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宮田律現代イスラム研究センター理事長

1955年、山梨県甲府市生まれ。83年、慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程修了。専門は現代イスラム政治、イラン政治史。「イラン~世界の火薬庫」(光文社新書)、「物語 イランの歴史」(中公新書)、「イラン革命防衛隊」(武田ランダムハウスジャパン)などの著書がある。近著に「黒い同盟 米国、サウジアラビア、イスラエル: 「反イラン枢軸」の暗部」(平凡社新書)。

北方領土問題を抱える日本は西岸入植地問題を真剣に考えよ

公開日: 更新日:

 11月18日、ポンペオ米国務長官は、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地は違法ではないという考えを明らかにした。米国内のイスラエル極右、福音派のロビー活動によって影響された判断だ。福音派は、米国内に8000万人もの信者がいるとも見積もられ、イスラエルの国益を守ることがキリストの復活を早めると本気で考えている。福音派は、トランプ大統領の重要な支持基盤で、ポンペオ国務長官の声明は再選を意識したトランプ大統領の意向が強く反映されている。

 19世紀イギリスの神学者ジョン・ネルソン・ダービーはユダヤ人がエルサレムを支配して第三の神殿を、バビロニア人が壊した第一神殿、またローマ人が破壊した第二のユダヤ王国の神殿の跡に築くべきだと訴えた。これはダービーによれば、キリスト教徒が地上における7年間の混乱と苦難の最悪の期間からキリストによって救われる「携挙(ラプチャー)」の前提と考えた。これに続いて「アルマゲドン」と呼ばれる善と悪の戦いがあり、悪魔が敗れ、キリストが至福の王国を建設する。このダービーの考えもアメリカの福音派によるイスラエル支持の源流となる考えであり、至福の王国の実現は1948年のイスラエル建国によって可能になったとアメリカの福音派は考える。

 福音派は至福の王国を建設して彼らの宗教心を満足させたいのかもしれないが、ヨルダン川西岸の入植地はパレスチナ人の土地を奪って造られ、その悲劇や生活苦をもたらしている。ヨルダン川西岸はイスラエルが1967年の第三次中東戦争の結果、占領したところであり、占領地住民の土地や財産を没収することは、1949年に成立したジュネーブ第4条約で禁止されている。イスラエルの入植地を違法でないとすることは国際法の観点からまったく筋が通らない。

■明らかなジュネーブ条約違反

 1973年10月6日に開始された第4次中東戦争でイスラエルを支援するアメリカに対して産油国は石油禁輸の措置に訴え、また日本などアラブ諸国に友好的でないと判断された国々には石油の輸出量を段階的に減らすことを決定する。日本が友好的でないと見なされた背景には、アラブ諸国の半分にしか大使館を設けていなかったこと、アラブの石油で経済発展を遂げたにもかかわらず、日本はアラブ・イスラム世界に経済支援を十分に行っていないなどの理由があった。日本社会は、トイレットペーパーや洗剤などが店頭から消えるなどパニックに陥った。

 その年の11月に来日したアメリカのヘンリー・キッシンジャー国務長官は田中角栄首相に「親イスラエル外交を」とつめ寄った。田中首相は「日本は中東の石油に依存している。石油が来なくなったとき、アメリカが供給してくれるのか」と田中首相は応酬したが、国務長官は答えることができなかったと、小長啓一・首相秘書官(当時)は田中首相から聞いた。二階堂進官房長官は、中東和平についても、パレスチナ人の民族自決権を認め、すべての占領地からイスラエル軍の撤退を求める内容の談話を発表、三木武夫・副首相を政府特使として産油国に派遣した。田中角栄政権はイスラエルに対して占領地からの撤退を求めた国連安保理決議242号の履行を求め、アラブ諸国から「友好国」の認定を得るように努めた。

■日本政治家はキッシンジャーと渡り合った田中角栄を見習え

 その後、日本パレスチナ友好議員連盟では、宇都宮徳馬、木村俊夫、伊東正義と言った気骨のある政治家たちが会長となり、また、三木武夫、大平正芳、福田赳夫と国際感覚に優れた政治家たちが外相であった1970年代後半から80年代にかけて日本は「パレスチナの民族自決権」を支持する立場、つまりイスラエルの占領は不当と明確に発信した。

 すでに1967年の第3次中東戦争の後、国連総会で「武力で併合した領土は認められない」と三木武夫外相は演説し、副総理時代の1973年に「パレスチナの子供たちのつぶらな瞳を裏切ることは出来ない」と述べて中東和平の重要性をあらためて強調した。現在のイスラエルのネタニヤフ政権はパレスチナ国家建設をいっこうに容認しないばかりか、ヨルダン川西岸に入植地を築いて民族自決権の基礎となるパレスチナ人の土地まで奪っている。

 下は、「オリーブの樹」126号に掲載された日本赤軍の元メンバー重信房子氏の「獄中日誌」からだが、俳優、ジャーナリスト、参議院議員であった山口淑子氏のイスラエルの占領で抑圧されてきたパレスチナの人々への共感に触れることができる。

「……(山口さんは)生い立ちを語ってくれ、45年日本敗戦後は死刑判決を中国で受けそうになったこと、日本人なのに中国人として生きてきた罪や苦しい矛盾、戦後日本人として生きていく中でも決して昔出会った中国の人々の寛大さを忘れないこと、自分を時代の加害者でありまた犠牲者と思えば思うほど、パレスチナのように虐げられた人々の何かに役立ちたいと思い続けていることなど、語っていました。『パレスチナ解放を助けてほしい、私は私たちの方法で、山口さんは山口さんの方法で!』そんな話を私もしました。

 その後もずっとパレスチナ問題にかかわり、参議院議員として『パレスチナ友好議員連盟』を木村外相や宇都宮徳馬氏らと創り、『アラファト訪日』も実現して活躍しておられました。(後略)」(参照:http://0a2b3c.sakura.ne.jp/ol126.pdf

 こうして見ると、日本にはかつて気骨ある政治家たちがいて、パレスチナ問題に毅然たる姿勢をとりイスラエルの占領を強く否定していた。パレスチナ問題についても今の政治家たちとの風格、問題意識や緊張感の違いを感じてしまう。菅官房長官は「政府としては入植活動は国際法違反であるとの立場である。この立場に変更はなく、本件の動向については関心を持って注視していきたい」と発言したが、国際社会には響いていない気がする。日本もEUのように入植地で生産されたり、作られたりしたものには「イスラエルの入植地産品・製品」などのラベルを貼ったらどうだろう。日本政府の目立たないイスラエル非難の声が、日本がパレスチナ和平の調停役を担えない背景にもなっている。北方領土、竹島、尖閣諸島という係争の地を抱える日本にとってパレスチナ人の苦悩は決して他人事ではなく、国際社会への貢献や存在感を考えるならば、イスラエルの入植地からの撤退を断固として求めていくべきだ。

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