来年スタート 小説「病院乗っ取り」 黒木亮氏 連載直前インタビュー

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 入念な取材をもとにした、リアリティーあふれる骨太な経済小説が定評の黒木亮氏による2カ月1話読み切り小説がスタートする。来年1月6日からは「小説 病院乗っ取り」が、3月からは「小説 仮想通貨」も予定されている。いずれもテーマは「日本経済の死角」だ。

 ――物語は、東京東堂総合病院の一室で、理事長を囲んで事務長や内科医らが診療報酬改定について話し合っている場面から幕を開ける。

「架空の東堂グループという医療集団が病院を次々と買収し、それらを立て直していく中で、日本の医療制度の欠陥を逆手に取って、違法ないしは違法すれすれのさまざまな手法を駆使していきます。それを夕刊紙の記者が暴く物語で、両者の攻防も見どころではないでしょうか」

 ――医療界に興味を持ったきっかけは。

「医療は身近でかつ大きなテーマなので、前々から興味があり、3年ほど前から取材をしていました。ただ、『白い巨塔』のような名作や医者出身の作家の手による優れた作品も多いので、独自性のある作品をどうやって書くかが課題でした。その結果、行き着いたのが、自分の専門分野である金融に近い『買収』(乗っ取り)というテーマです。件数が多い割には表に出てきていないので、読者にとっても興味深いのではないでしょうか」

 ――小説中には、人工透析治療の儲けのカラクリなども描かれており、リアルだ。

「私の作品はすべてそうですが、リアリティーを詳細に書き込むことで説得力を出し、読者の知的欲求にも応えたいと思っています。診療報酬は日本の医療制度の根幹であり、それの2年ごとの改定によって、医療の在り方が大きく動いていますので、作品の中でも物語の中心として随時出てきます」

 ――東堂グループは、やがて首都圏きっての名門病院の買収に乗り出す。そして、採算の取れない産婦人科や小児科の閉鎖など、まさに医は算術の世界が描かれる。

「どこの世界でもそうですが、良心をかなぐり捨てて金に走る人、儲けは無視してひたすらよい仕事を目指す人、その中間の人がいます。医療も同様です。また、良心的な医者でも算術を理解していなければ長続きしません。要はバランスということでしょう。患者にとっても医者の算術を理解しておくことは、コストに合ったいい医療を受けるために大変重要だと思いますね」

 ――東堂グループを取材する記者が受ける眼科の手術のシーンが印象的だ。

「私は2018年10月に都内の病院で目の手術を受けたので、その時の体験を下敷きにしています。刑事裁判の被告人になって、その弁護士費用をコンサルティングや文筆活動の経費にした元会計士さんがいて、それを日本の国税が認めたそうなので、私も自分の納税地である英国の税理士さんに手術・入院費用を経費で落とせないか、今度聞いてみるつもりです(笑い)」

 ――今住んでいるイギリスと日本の医療の違いは?

「イギリスにはGP(家庭医)という制度があり、病気になるとGPにまず診てもらい、そこで紹介状を書いてもらって専門医に診てもらいます。しかし、国営で無料のGP制度は財政難でパンク状態。予約も取れず、電話で症状を聞いて紹介状を書いたり、予約がずっと先になって、その間、病状が回復不能になるまで悪化するということもあり、ちゃんと機能しているとは思えません。患者にとっては日本の医療制度の方がいいと思いますね。ただ、今回取材で日本のお医者さんに話を聞いてみたら、何でもかんでも専門医の元に来る患者が多いのでかなわん、患者数が少なくて早く診てもらえると思って土日に来る患者もいるので、来るなと言いたい。そのあたりをちゃんと前さばきしてくれるイギリスのGP制度が羨ましいと言っていたので、やはり患者と医者の視点は違うんだなあと再認識しました」

 ――最後に読者へのメッセージを。

「ドラマを楽しみながら専門知識も得られる一石二鳥になるよう書いています。小説で医療の現実を知り、それを暮らしにも役立ててほしいと思いますね」

▽くろき・りょう 1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院中東研究科修士。邦銀、証券会社、総合商社で23年余りにわたって国内外のファイナンスに従事。43歳で国際協調融資を巡る攻防を描いた「トップ・レフト」でデビュー。著書に「巨大投資銀行」「鉄のあけぼの」「ザ・原発所長」など多数。1988年からロンドン在住。

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