ストーリーテリングを楽しもう 極上冒険小説特集

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「余命一年、男をかう」吉川トリコ著

 いよいよ秋本番。週末からはシルバーウイークに突入する。だが、行動制限が続いており、旅行も行楽も食べ歩きもはばかられる。どうせお出かけができないのなら、この秋は読書の秋をとことん味わおう。ということで今週は読みごたえたっぷりの極上エンターテインメント小説を揃えた。



 OLの唯の楽しみは、一日の終わりにアプリで資産総額を確認すること。20歳で買ったマンションに暮らしながら、あらゆる節約術を駆使して出費を抑え、恋愛も結婚も出産もコスパが悪いからと独身を貫いてきた。しかし、40歳になり、無料がん検診を受診したら、末期がんと宣告されてしまう。要精密検査の通知が届いた時から治療をせずに死ぬと決めていた唯が、医師に余命を聞くと、1年、長くても2年か3年だという。1年で死ぬなら節約なんてもうしないで、好きなことをして暮らそうとは思う。でも、間違って10年も20年も生きてしまったらどうするか。

 病院のロビーで会計を待ちながら思い悩んでいた唯に、髪をピンクに染めたホストらしき男が金を貸してほしいと絡んできた。男は、聞いてもいないのに父親の入院費が払えず、このままでは一家心中だと訴える。

 余命を宣告されたOLとピンク頭のホストを主人公にした恋愛小説。

(講談社 1650円)

「革命キッズ」中路啓太著

 1960年、東京は五輪に向け建築ラッシュに沸いていたが、天野が営む土建屋は仕事を干され、経営が悪化。恩人の津長の葬式に参列した日も資金繰りに奔走する天野だが、現れた男たちに拉致され、とある料亭に連れていかれる。待っていたのは時の経済大臣・沼津だった。

 沼津は大金を積み上げ、天野に「軍事同盟条約改定反対」を掲げる若者たちの運動を支援してほしいという。沼津は、条約改定を進める首相の河辺を引きずり降ろすため、若者たちの運動を利用するつもりのようだ。天野はかつて左翼運動のリーダーだったが、獄中で転向。元同志の妻に二度と政治には関わらないと約束しており、引き受けるつもりはない。しかし、河辺の背後に今は政商として名を馳せる玉城がいると聞き動揺する。沼津によると、津長が殺されたのも玉城の差し金だという。

 学生運動が熱かった60年安保を彷彿させるポリティカル小説。

(光文社 2200円)

「ヒトコブラクダ層ぜっと(上・下)」万城目学著

 東京五輪開会式の夜、梵天・梵地・梵人の三つ子が久しぶりに集合。その日は3人の24歳の誕生日だった。幼いころ両親を亡くし、梵天は弟2人を進学させるため中卒で就職。運動神経抜群で五輪出場確実といわれた梵人は、けがで競技を引退、今はバックパッカーとなり海外を放浪。一方、成績抜群の梵地は大学院生になっていた。

 その夜、3人はこれまでお互いに内緒にしていた各自が備える特殊能力について打ち明け合う。3人は、それぞれの能力を生かし、社会的弱者を救済する泥棒稼業に手を染める。

 そんな中、梵天は夢を実現させるため貴金属強盗の手伝いをして大金を手に入れ、山を購入。この山に眠っているはずの恐竜の化石を掘り出そうとした矢先、アラビア語を話すライオンを連れた女が現れる。女は3人の特殊能力をなぜか知っていた。

 予測不能の展開で一気読み間違いなしのエンターテインメント巨編。

(幻冬舎 各1980円)

「心経」閻連科著、飯塚容訳

 国家の委託を受けて北京の大学に創設された宗教研修センターでは国中から、仏教、道教、キリスト教(プロテスタント)、天主教(カトリック)、そしてイスラム教の大師や信徒が集められ研修が行われている。センターでは貢主任によって、交流を名目に各宗教の選抜チームによる綱引き競技が定期的に行われている。

 ある日、研修生の道士・明正は、玉尼の雅慧に、貢主任に直談判して綱引きを中止させると約束する。実は雅慧の師である王慧は、初めて綱引きを見た日に脳出血で倒れて入院中だった。綱引きが中止になると聞いた王慧は急回復する。

 しかし、体育の教授で綱引きをテーマに自著を執筆中の貢主任にその気はない。同じころ、無名氏と名乗る男が、大師らを訪ね歩き、スキャンダルを内密にしておくことと引き換えに綱引きへの寄付金を募っていた。

 ノーベル賞候補に名が挙がる著者が、中国の宗教をテーマに描く問題作。

(河出書房新社 3960円)

「ホワイトバグ生存不能」安生正著

 2026年秋、グリーンランドに滞在していた国際山岳ガイドの甲斐は、依頼を受け、ギュンビョルン山麓で行方不明になった日本の調査隊の救助に向かう。しかし、甲斐が雪洞で発見したのは隊員らの無惨な遺体だった。

 帰国後、甲斐は亡妻の父親で内閣官房副長官の中山の要請で、アフガニスタン北部、パミール高原に位置するワハーン回廊に飛ぶ。数日前、同地に派遣された気象観測隊が消息を絶った。捜索隊が救助した2人の隊員も直後に死亡。現地で何が起きているのか調べるため政府は、動物遺伝学者の丹羽と古生物学者の上條を派遣することになり、甲斐はそのサポート役だ。吹雪を避けるため甲斐らが洞窟に入ると、中国の国境警備隊が異様な姿で死んでいた。同じころ、日本ではワハーン回廊で遭難死した隊員の遺体から謎の生物が見つかる。

 温暖化が進んだ近未来を舞台に人類絶滅の危機を描く超絶エンターテインメント。

(宝島社 1760円)

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