単なる落書きではない街の風景を構成する重要なファクト 「TOKYO GRAFFITI ARCHIVE」横山隆平写真、大山エンリコイサム解説
「TOKYO GRAFFITI ARCHIVE」横山隆平写真、大山エンリコイサム解説
繁華街の建物の壁やシャッターなど、街のいたるところにエアロゾルスプレーやフェルトペンを用いて、デザイン化した名前を記し、自己のスタイルを表現する「ライティング」は、1960年代末にアメリカの都市部の少年少女らによって誕生。以降、さまざまなスタイルを生み出し、バスキアやキース・へリング、そして近年ではバンクシーなど、ストリートアートも生み出してきた。
しかし、グラフィティと呼ばれるこうした表現は、元々がイリーガルなものであるがゆえに、いつしか消えていく運命にある。
長年、都市を見つめ、撮り続けてきたフォトグラファーの著者は、それが街の風景を構成する重要なファクトだと気づき撮影を開始。
本書に収まるのは、2015年以降、東京オリンピック2020や再開発で都市の構造そのものが大きく変容し街の営みが根こそぎ失われていく渦中の渋谷を中心にしたリアルな街の風景の記録だ。
大きなビルの裏側だろうか、開口部がないベージュ色の広大な壁をキャンバスにして、人の手の届く範囲いっぱいにありとあらゆるグラフィティが描かれている。
一番大きく、目立つグラフィティは、スローアップと呼ばれるもので、アウトラインと呼ばれる線状の輪郭部分とフィルインと呼ばれる面状の中塗り部分で構成。アウトラインは白と黄色、フィルインは赤で描かれたグラフィティなのだが、その上から別のグラフィティによって上書きされ、周囲の隙間という隙間はタギングと呼ばれる一筆書きのようなシンプルなグラフィティで埋め尽くされている。
かと思えば、ハローキティの柄が入ったスカーフで口を覆い不穏げな目でこちらを見つめる少女や、放射能物質を表すあの不気味なマークと鎖でつながれ、虚空を見上げる少女、頭を覆う鳥かごから救出を求める少女など、バンクシー並みのメッセージ性を込めたイラストが描かれた壁もある。
グラフィティは壁だけでなく、街のあらゆる場所をキャンバスにして侵食するように広がっていく。
スローアップから更に変化して、造形が過剰に入り組んだ装飾の多いワイルドスタイルと呼ばれるグラフィティが描かれた商店のシャッターや公衆電話、標識や看板の表や裏、果ては洋装店のショーウインドーやビルの塔屋まで、「ライター」たちにタブーはない。
70年代ニューヨークのライターたちは、拡散をもくろんで地下鉄の車両にも描いた。
それに倣ったのか、トラックのボディー側面に描かれたグラフィティもある。
グラフィティは、単なる落書きではなく、ひとつの主張であり、思想だという。著者は「街の風景に自ら関与、介入してゆくその思想的な姿勢、壁にかくというその根源的な自由の文化の灯火はいまこの瞬間も消えることなく静かに確かに燃え続けている」と記す。
収録されたグラフィティは、ほとんどもう存在しない。二度と見ることができない街の風景の歴史を記録した貴重な一冊だ。 (左右社 4400円)



















