「身近にあるドラッグ的なものや脱法性に自覚的になることが大切」──「脱法」磯部涼氏
「脱法」磯部涼著
合成大麻、ゾンビたばこ──。これらは、かつて法規制の網をかいくぐり、合法かのように販売されていた。今も、「脱法ドラッグ」と呼ばれて流通している。著者はそんな脱法ドラッグの世界を10年以上追いかけてきた。
「『ルポ川崎』以降、陰惨な事件や社会問題と、そこから生まれる文化の関わりを書いてきましたが、ドラッグと音楽も密接に結びついています。新しい音楽は、貧困などドラッグが身近である環境から生まれることも多いんですね。でも日本では、その関係は見て見ぬふりをされてきた。『脱法』の切り口なら、その周辺にいる若者や文化を書けると思ったんです」
本書は、さまざまなドラッグの製造者、売人、ユーザーら200人を超える人たちに取材して著されたルポルタージュだ。
2000年代半ば、ラッパーがドラッグの売人を意味する「ハスラー」を織り込んで歌った。時のブルーズ(憂鬱な気分)として聴かれたそうだが、著者はそこに就職氷河期の若者の姿を重ねる。
「ハスラーは、巨大な犯罪組織の末端で使われる売人なんですが、非正規雇用の若者たちの比喩として読めると思ったんです。非正規雇用は企業の、ハスラーはヤクザ組織の下っ端。どちらも、そうならざるを得ない時代背景や環境があったんですね」
本書では、10年代前半を「第1次」、20年代を「第2次」脱法ドラッグブームと位置づける。第1次は街々に「合法ハーブ」などの販売店があり、「ガラの悪い人」ばかりか、サラリーマンも高校生も買いに来ていたそうだ。作る側の多くが素人。効果を予測できず、“人体実験”をしながら次第に強いものを作るようになった。結果、14年の池袋暴走事故(車を爆走させ、7人を死傷させた)など脱法ドラッグを吸引し酩酊した状態での事故・事件が相次いだ。以後、規制が強化され、15年には店舗が消滅する。
「ところがその後、大麻由来の希少成分を加工した『半合成カンナビノイド』のリキッドが開発され、第2次のブームがきます。担い手が、第1次ブームはアウトローだったのに対し、第2次ブームはアウトローではない起業家たちなんですね。彼らは海外のカンナビス(大麻)産業にのっとり、日本にもビジネスチャンスがあると考えた。海外で合法的に製造・検査された粉末や液体を輸入し、電子たばこのカートリッジなどにしてネットで販売するようになったわけです」
本書には、第1次に確として「(文化の)社会実験だ」と話すユーザーも、第2次に「トー横でほしいっていうやつにはただで渡している」という男性も登場。脱法ドラッグが一般消費者の隣に近づいている様子が浮かび上がる。
府中市の祭りで、「大麻グミ」を善意で配った男性がいた。もらった側は意識障害を起こして救急搬送された。広島東洋カープの選手たちがゾンビたばこを吸った、飲料企業の会長(当時)が日本では規制対象の成分が含まれるサプリメントをアメリカで買ったことも本書に詳述されている。
「実は、高濃度アルコール飲料も、処方薬を決められた量以上に飲むことも、糖尿病薬を痩身目的で使うことも、広い意味では脱法ドラッグと同じ構図です。身近にあるドラッグ的なものや脱法性に、自覚的になることが大切だと思います」
夏休み真っただ中。合法と違法の境界に広がるグレーゾーンが、今や私たちと地続きにある──と改めて肝が冷やされる。 (大洋図書 1980円)
▽磯部涼(いそべ・りょう) 1978年生まれ。ライター。著書に「ルポ川崎」「令和元年のテロリズム」、共著に「ラップは何を映しているのか-『日本語ラップ』から『トランプ後の世界』まで」など。



















